足の早い青魚の刺し身はこういうところでしか口にしない。スーパーでパックの刺し身を選ぶときは、どうしてもサーモンやマグロ、ハマチやなんかに目が行く。青魚はさばいた直後に食べてこそ美味いのだ。絶妙な塩加減の焼きサンマは、ほろ苦いワタまで美味しくいただいた。


赤塚先生からは「よっちゃん」と呼ばれていた
「炉ばた焼 権八」が開業したのは1975年(昭和50年)のこと。今年で50年目だ。創業者の関澤義男さん(81)が話を聞かせてくれた。
「親が魚屋でね、私が30代のはじめにこの店を始めた。そもそも兄が赤塚(不二夫)先生と飲み友達でさ、私が居酒屋を始めるって言うと、よっちゃん(義男だからこう呼ばれていた)のためだって言って色紙を書いてくれましたよ」(関澤さん)
その色紙は今でもレジ近くに飾ってある。

「赤塚先生は、本当によく来てくれていましたよ。多いときは週に2、3回は足を運んでくれていました。
うちが店を始めたころは、近所に今よりも飲み屋が多かったね。でもだんだん減ってきた。新鮮な魚を食べられる店が少なくなってるから、魚が好きな人はうちを選んでくれるんだろうね。
ここらへんは町内会がしっかりしているから、お祭りなんかも盛んでね。地味な街だけど、住みやすいと思いますよ」(関澤さん)
店を出るとすっかり日が暮れていた。街の道々は街灯や店の看板でどこも明るい。林芙美子のいう「暗がり横丁」の面影はどこにもないが、文化と歴史の匂いは今でも健在だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら