「このあたりは、川の周りスレスレに建物が並んでいるだろ、店の規模を大きくできないんだ。だから発展できないんだね。西武線に乗っちゃえば新宿まですぐ(6分)だし、地下鉄に乗れば六本木に行くにも便利(20分)でしょ。交通の便はものすごくいいんだけど、乗り換えの乗客は街の店は素通りだよ」
しかし、この街は素通りするにはもったいない。歴史と文化がつまった街だ。
ここ中井には、『放浪記』や『浮雲』で知られる作家、林芙美子記念館(新宿区中井2−20−1)がある。1903年(明治36年)に北九州の門司で生まれ(山口県下関生誕説もある)、1951年(昭和26年)に47歳でこの世を去った林は、1941年(昭和16年)から亡くなるまでの10年間をこの地で過ごした。
1922年(大正11年)に上京し、様々な苦労を重ねた林は、1930年(昭和5年)にこの界隈に移り住んで、1939年(昭和14年)に土地を買い、新居を建てた。記念館は当時の家屋をそのまま公開している。開館時間は午前10時から午後4時半まで、月曜日が休館日だ。入館料は大人150円で、小中学生は50円となっている。

昔はおいはぎが出たという「暗がり横丁」
林はエッセイ『落合町山川記』の中で中井のことを次のように書いている。
このエッセイが出版されたのが1934年(昭和9年)のことなので、林が語っているのは戦前の話だ。本当においはぎが出たのか、それともそんなウワサがあっただけなのか、定かではないが、とにかくあまり治安の良い地域ではなかったようだ。

無料会員登録はこちら
ログインはこちら