「この街は発展しない。だからいいんだ」 新宿駅から6分、なのに「素通りされる」街。交通の便がすこぶる良いのに、再開発の波が及ばないワケ

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確かにその通りだろう。妙に納得した。話を聞くのは楽しいのだが、飲めない客が長時間居座っても迷惑だろうから、30分ほどで腰をあげた。すると、前歯のない客がこういって見送ってくれた。

「お兄ちゃん、中井は林芙美子だけじゃないよ。赤塚不二夫先生だってこのあたりで飲んだくれてたんだからね」

そう、中井は『天才バカボン』『おそ松くん』で知られる昭和のギャグ漫画王赤塚不二夫ゆかりの地でもある。

商店会のバナー
商店会のバナーにもバカボンパパの姿(筆者撮影)

『天才バカボン』の赤塚不二夫が愛した炉端焼屋

さっきまでおじゃましていた居酒屋の近くにある「炉ばた焼 権八(新宿区中落合1-13-2)」は生前の赤塚不二夫が通った店だ。

炉ばた焼 権八
赤塚不二夫が愛した店「炉ばた焼 権八」(筆者撮影)

西武線の中井駅から歩いて3分ほどにあるこの店は、中井住民なら知らない人はいない。カウンター8席、小上がりには8人ほどが座れるテーブルが4つ。カウンターの奥にあるテレビでは大相撲の中継が流れている。店内には赤塚不二夫のサインや写真が飾られている。酒場好きからも知られる名店で、居酒屋探訪家の吉田類のサインも飾ってあった。

磨き込まれたコンクリートの床は、開業から50年という歴史がじっくり染み込んで、浅黒く滑らかだ。カウンターの隅の席に腰掛け、烏龍茶と青魚の刺し身、サンマの塩焼きを注文した。繰り返して恐縮だが私はアルコールが呑めないので、こんなときはもっぱら烏龍茶だ。

しかし、カウンターと厨房の間には、ぎんなんや里芋、アサリ、ハマグリなど、季節の食材が並ぶ。これらを肴に酒を呑めば、さぞかし愉快だろうと思うが、下戸にはそれができない。悔しいかぎりだ。ただ、居酒屋の雰囲気は好きなので、呑めないくせに時々利用する。

長い時間をかけて何度も塗り重ねたような店の歴史が感じられる。そんな店内の様子を楽しんでいるうちに、注文した品が運ばれてきた。

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