「この街は発展しない。だからいいんだ」 新宿駅から6分、なのに「素通りされる」街。交通の便がすこぶる良いのに、再開発の波が及ばないワケ

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林のいう「暗がり横丁」が正確にどのあたりだったのかはわからない。だけど西武線の線路脇に、ひょっとしたらこのへんのことかなぁと思しき横丁がある。

中井駅通りから小路に入り、パチンコ屋、カラオケ店、日本料理屋などがごちゃっとかたまっている場所だ。そこで昼間から地元の人たちで賑わうカウンターだけの居酒屋の暖簾をくぐった。

地元客の集まる居酒屋の暖簾の先には

ニラの玉子とじ(350円)、ポテトフライ(300円)、マカロニサラダ(250円)、サワー類(300円)などなど、500円を超えるメニューはざっと見たところビールの大瓶(680円)だけだ。

平日の昼間だが、互いをあだ名で呼び合う地元の人たちでカウンターはほぼ埋まっていた。すみっこに席を見つけ、下戸の私は烏龍茶を飲みながら話を聞いた。

卵焼き
「店の名前はかんべんしてね」とご主人に言われたのでメニューの写真だけ(筆者撮影)

「中井はさ、駅前が狭っ苦しいだろ、せめて車のロータリーを作ることができたら、バスが入ってこれるようになるから、もっと発展するんだけどねぇ」

と、ある客はサワーを傾けながらいうのだが、隣の紳士は次のように語る。

「いやぁ、だからいいんだよ。発展、発展っていうけどさ、発展なんかされちゃ、俺たちの居場所がなくなるよ。中井は今のままでいい、こんくらいがちょうどいいんだよ」

私は卵焼きをつつきながら訊いてみた。

「林芙美子が、昔は中井の駅の近くでおいはぎが出たって書いてるけど、かつてはそういう街だったんですかね」

前歯のない客が笑いながら言う。

「そりゃ中井に限ったことじゃないよ。戦前の東京はどこに行ってもそんな感じだったはずだ。みんな食うに困っていたんだ」

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