少年院で「食の大切さ」を講演するカフェ店主「包丁は使い方で料理の味を左右する。雑に扱うと自分や人を傷つける」母からの教え説く

広野さんが「お母さんになった気持ちで講演しよう」と思った深い理由がある。離婚後、わが子と離れて暮らした時期が長かった。今は孫も含めて仲良くしているが、交流が途絶えている間は「出会った子どもに優しくすることで、わが子も他の人から優しくされているはず」と信じて前向きに過ごした。だから、少年たちと離れて暮らす親の心情が理解できた。
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少年院で食の大切さを伝える講師として、広野さんに白羽の矢が立ったのには、どのような経緯があったのだろうか。正式名称「コミュニティカフェ・カフェゴッコ」は2023年6月、農林水産省による第7回食育活動表彰で農林水産大臣賞を受賞した。それ以前に北陸農政局の表彰も受けていたので、農林水産省のホームページを見た少年院の担当者が問い合わせ、北陸農政局の推薦で広野さんが講師に決まった。
広野さんのライフストーリーは次のようになる。中学卒業まで富山市で、高校からは東京都内で過ごした。高校時代から飲食店でアルバイトし、都内のイタリア料理店に就職した。そこでは、安全にこだわった食材を使って調理していた。しかし、30歳で富山市へUターンし、レストランで店長として働き始めると、経営者と食の安全を巡って対立した。食材の劣化防止のために添加物を加え、化学調味料も多用していた。また、メニューで「手作りコロッケ」とうたいながら食品メーカーが製造・販売した「手作り風」の商品を揚げて出すことに罪悪感を覚えた。
それでもレストランに2年ほど勤めたが、体調を崩して退職。その後、薬膳やマクロビオティックなどについて学び、自宅で料理教室を始めた。地元産の無農薬野菜を使った料理を家庭向けに教えていると、「店を開いて多くの人に食べてもらいたい」という気持ちが湧いてきた。そこで、2009年に4月、多くのカルチャースクールが入る「とやま健康生きがいセンター」の1階に「カフェゴッコ」をオープンした。