少年院で「食の大切さ」を講演するカフェ店主「包丁は使い方で料理の味を左右する。雑に扱うと自分や人を傷つける」母からの教え説く

初回の講演後すぐに少年院から、同じ顔ぶれの少年たちを前に「もう1度、講演してほしい」と依頼があった。広野さんが地域で「食の大切さ」を伝える場合、多くは調理方法まで伝える実習の形式を取っている。調理実習ができないかと打診したが、担当者から難しいと言われた。そこで動画を作り、2025年6月に行った2回目の講演はハンバーグ、豚の生姜焼き、ほうれん草のごま和えの作り方を紹介した。すると、再び礼状と感想文が送られてきた。
「講話を受けてお腹がすいたとか、得意料理が何かを教えてくれた子もいました。皆さん、『料理は意外に簡単』と思ってくれたようです。家族のために料理をしたいという感想もありました」
広野さんが「野菜を繊維に沿って切ると食感が残り、繊維を分断するように切ると柔らかくなる」と伝えたことが印象に残ったとするコメントや、家族と食卓を囲んだ思い出の数々を明かす感想もあった。
少年院では「お母さんになった気持ちで講演しよう」
少年院から依頼を受けた当初、広野さんは「何を話せばいいのだろう」と迷った。ぶっつけ本番ではなく、初回の講演の2週間ほど前に少年院を見学している。担当の職員と打ち合わせをし、レクチャーを受けた。少年院で過ごす子どもの背景を知り、「お母さんになった気持ちで講演しよう」と決めた。
「目の前にいる少年たちからは、料理教室などで出会った大学生と同じように好奇心や意欲が感じられました。少年院は更生の場であり、導く方々も就学・就労に向けての学びを意識しているのでしょう。少年たちは少年院を出た後、家庭や社会に戻って新たな気持ちで生活していきます。更生の途中で私と出会い、食を通じて、これから先の生き方を考えていると分かりました」