朝ドラ【あんぱん】やなせたかし、94歳でも仕事を続けた信条は「全部自分の子ども」 《アンパンマンが売れて収入10倍も、叶わなかった妻との約束》
出会ってから40年以上、ともに人生を歩んできた。物事に積極的で努力家である妻・暢に対して、やなせは自身を「世事にうとく、だらしなく、整理整頓ができず、不器用という欠点のかたまり」と称して、こう書いている。
「ぼくは自分の仕事以外は、全部カミさんに頼っていた。散髪も時にカミさんにしてもらった。ぼくが病気になると、自分の髪をばっさりとショートカットにして、全力をかたむけて看病してくれた。実に頼りがいがある」
暢が乳がんの手術で入院する前、やなせが先に二度にわたって入院している。一度目は腎臓結石の体外衝撃波結石破砕法の手術を受けるため、二度目は白内障の手術を受けるためだ。常に自分より健康だった妻が、まさか深刻な病に侵されているとは、夢にも思わなかったことだろう。
アンパンマンのアニメがいよいよスタートするときの状況について、やなせはこう振り返っている。
「ぼくは病気あがりであり、家には余命3カ月と宣告された妻がいる。いつ再発するか予断を許さない。ぼくの母は既に世を去り、妻の母は老人ボケがはじまって入院した」
やなせの人生が大きく動き出そうとしているとき、私生活では暗雲がたちこめていたのである。
妻の存在の重要性を改めて実感した
そこから意外なことが立て続けに起きる。全く期待されていなかったアンパンマンのアニメが思わぬ好調ぶりを見せると、暢の体調も良くなっていったのである。
医師の余命宣告から1カ月後には歩けるようになり、やがて退院すると、自宅まで徒歩で帰ることもできた。年が明けると体重も増え始めて、お茶の稽古を始めたかと思うと、趣味の山登りも再開することができた。
やなせにとって、これほど嬉しいことはなかっただろう。抗がん剤が効いたのか、子宮がんを克服した漫画家の里中満智子からすすめられて試した「丸山ワクチン」がよかったのか。
快復の理由はわからないが、もしかしたら、アンパンマンの活躍もプラスに働いたのかもしれない。妻の死を意識することで、やなせは暢の存在がいかに重要かを、改めて実感することになった。
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