「真剣交際に進みたい」ときみえがそれとなく話を振ると、いちろうは言葉を濁しながら答えた。
「今ここで即答するのではなく、少し考えさせてもらってもいいかな」
そして翌日、こんなLINEが届いた。
「きみちゃんと過ごす時間は本当に楽しいし、人生のパートナーとしては僕にはもったいないくらいの相手だと思っています。ただ、結婚を考えたとき、実家の土地や墓のこともあって、自分の子どもを持つという夢だけはどうしてもあきらめきれないことが、今回改めてわかりました。自分勝手でごめんなさい。楽しい時間をありがとうございました」
こうして交際終了となった。きみえは、憤慨しながら筆者に言った。
「私は2人の子どもを育てているから、子育ての大変さや難しさ、どのくらいお金がかかるのかもわかっています。55歳から子どもを授かることがどういうことなのか。現実をしっかりと見たほうがいいですよね」
いちろうは、前の結婚でできた子どもが幼い頃に離婚をしているので、子育てをした実感がないのだろう。
53歳から婚活を始め、55歳になっても相手が見つかっていない。そこで、同世代のきみえと付き合いを始めたものの、“交際終了”を出したことで、振り出しに戻った。
今後、子どもを授かれる相手と結婚できるという保証は、どこにもない。
「お金はある」と話す60代
確かに、人は何歳になっても結婚はできる。そして、50代、60代で父になることも、不可能ではない。
だが、結婚とは、“選ぶこと”と“選ばれること”がイコールになったときに成立するものであり、50代、60代の男性が30代の女性を選ぼうとしても、30代の女性から選ばれなければ、結婚はできない。
また、冷静に見なければならない“現実”もある。
50代、60代で子どもを授かりたいという男性は、「自分にはそれだけの経済力がある」というのをよく主張する。しかし、子育てに十分すぎる経済力があったとしても、子育てはできない。子どもの親になるというのは、お金の問題だけでは片付けられないからだ。
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