《万博》唯一の個人店が挑んだ「冷凍だらけ」の現実 生食材からの完全手作りで、1日7回転の大繁盛とんかつ店を生んだ"執念"の舞台裏
大企業ではないまったくの個人店が、まさかの当選。応募はしていたものの、一番驚いたのは野口さん自身だった。
だが、ここからが想像以上に大変だった。身近に国際万博を経験した人もおらず、何をどうしていいかわからなかったのだ。野口さんの前には、3つの大きな壁が立ちふさがった。順番に見ていこう。
最初に立ちはだかったのは「調達の壁」
1.調達の壁
1つめは、材料調達の壁だ。万博を運営する協会からは、「基本、野菜はGAP認証(食品安全の国際基準)を受けている生産者のものを使ってください。豚肉も、別の安全性についての認証を取っている生産者から仕入れてください」と説明が入った。
国際万博開催には社会的な役割があり、飲食店にもサステイナブルな姿勢が求められたのだ。
それは理解できる。しかし、料理人側から見ると、こだわって作っている生産者ほど小規模の畜産農家が多く、認証を受ける余裕がない。この要求には、とてもじゃないが従えない。
では、協会の要求は、「絶対」なのか、「できたら」なのか……。そこはグレーで、交渉が必要だった。

けれど、野口さんはあくまで料理人である。当時はまだ中津の店を営業中で、片手間に万博協会と細かなやりとりなんてとてもできない。そこで、イタリアン時代から知り合いで、万博の申し込みも手伝ってもらっていた経営コンサルタントの酒井裕二さんに、サポートを依頼したという。
酒井さんがガイドラインを読み込んで、協会担当者、調達担当者を交えて辛抱強く話し合い、最終的に「日本国内の畜産農家であれば、食品衛生については法遵守はしているので大丈夫でしょう」と許可を取り付けた。野菜は中津の店時代と同じく大阪の中央卸売市場で、豚肉も、全国5カ所の生産者から仕入れられることになった。
野口さんにとっては「元々の仕入れ体制」が実現した形だ。けれど、この体制が構築できたことは、野口さんが思った以上に大きな成果だった。
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