「パンもカレーもあって、フルート演奏も聞ける」「なのに店主はワンオペ」65歳店主、命の危機を乗り越えて"物語のある店"を続ける理由

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千里経済研究所から学んだ投資方法により増えた資産は、「トロイカ&リビエラ」の開業資金やマンションを買うときの頭金になった。バブル崩壊後は人件費負担で毎月100万円の赤字が続いたが、株式投資の収益で耐えた。

「福井さんからは投資以外にも大切なことを教わった。たとえば、何か見て感動するとか、人の痛みがわかる、そういうことのほうが大事やって。経済的に弱い立場やと生きてても面白くないから、社会の中で強くなることが大切やねん。それはつまり、社会の中でいろんなことを乗り越えていくということやな」

人を勇気づけるためにフルートを始めた

階段室の絵は久米さんが描いた(筆者撮影)

久米さんの創造性は、パンや料理にとどまらない。現在は使われていない3階のパン工場へと続く階段室の壁画は久米さんが自ら描いた。店を訪れたお客さんが壁にメッセージを残せるようになっている。

「パン工場に手塚治虫のキャラクターを描いたんは、僕自身が『ジャングル大帝』を見て育ってきたからなんよ。当時は従業員がいたから、ちょっとでも気分転換になったらええなぁと思って描いたんやわ。今は来てくれたお客さんの思い出作りに、自由にサインできるようにしてんねん」

フルートで「大きな古時計」を吹く久米さん(筆者撮影)

お客さんからのリクエストがあれば、忙しい手を止めてフルートを吹いてくれる。人を勇気づけ、楽しませるための試みだ。

「お客さんが落ち込んだ様子で食事している姿を見て、励ましたいと思ったのがフルートを始めたきっかけ。音楽はうまい下手の問題やなくて、『お客さんのためにやりたい』って気持ちのほうが大事やと思うねん。たまたまフルートのコンサートを見て、『フルートって力強いなぁ』って感じてん。最初の1年は音が出なかった。毎日1時間ずつ練習して、ようやく音が出るようになって、それからは10年間毎日吹いている」

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