「パンもカレーもあって、フルート演奏も聞ける」「なのに店主はワンオペ」65歳店主、命の危機を乗り越えて"物語のある店"を続ける理由

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

卒業前に野田秀樹主宰の劇団「夢の遊眠社」のオーディションを受けた。今後、本当に芝居をやりたいのか考え直すため卒業後は徳島の実家に戻り、読書やジャズ鑑賞など自由な生活を送っていた。

そんなとき偶然出会った一冊の本がきっかけで、「自分にもできる」という気持ちと働く意欲が芽生えた。手に職がつく仕事を探していたら、求人広告で神戸の老舗ベーカリーの募集を見つけた。神戸で寮生活をしながら働くことを決め、カバン一つで新しい人生を踏み出した。

株式投資と人との出会いが運んだパン屋経営の道

焼き上がった食パンを型から取り外す久米さん(筆者撮影)

久米さんが就職するきっかけとなった本は、日本生命の営業マンだった福井壽夫さんの自伝『ロマンと儲けをつかむ』だ。「経済基盤を作ることの大切さ」を説いた株式投資の入門書でもある。福井さんが代表を務める千里経済研究所(株式投資情報を提供する会員制クラブ)が、大学時代の下宿先の前にあった研究所だったことに運命を感じた。

就職した神戸の老舗ベーカリーでは毎日12時間働いていたが、転勤した広島ではそれ以上にハードな生活が待っていた。

「広島では、午前3時から23時まで働く生活が3カ月も続いてん。食べることより、とにかく寝たかった。コック服のまま寝て、起きたらそのまま仕事して、帰ってまたそのまま寝る……そんな毎日やったんよ。このままでは命が持たへんと思って、福井さんの本で知った千里経済研究所に入会してん。一日も早くこの生活から抜け出したかった」

福井さんに手紙を書き、訪問したところ「君は僕の息子だ」と迎えられ、家族のような交流が続いた。久米さんを支えたのは、福井さんや千里経済研究所の会員との心のつながりだった。

リビエラちゃんのイラストがプリントされた食パン「パン・ド・ミ・リッチ」(540円)が人気(筆者撮影)

複数の仕事を経験した後、大学の同級生の紹介で、大阪でパン屋を何軒か経営していた「トロイカ&リビエラ」のオーナーと知り合った。そのオーナーがパン屋をやめて別の仕事に変わるタイミングで、久米さんが「トロイカ&リビエラ」を引き継いで独立した。

次ページ人を勇気づけ、楽しませるためにフルートを吹く
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事