「パンもカレーもあって、フルート演奏も聞ける」「なのに店主はワンオペ」65歳店主、命の危機を乗り越えて"物語のある店"を続ける理由

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

そんなストイックな生活がたたり、昨年足の不調から大きな病気を患った。店や銭湯で倒れて救急車に乗ることが2度あった。命の危険に直面した久米さんは、思い切って週休2日に切り替える。

常連客や近隣住民の誰もが、久米さんの奮闘を知っていた。彼らにとって「トロイカ&リビエラ」は、もはや久米さんだけの店ではない。自分たちの生活に欠かせない、大切な場所だった。だからこそ、彼らは店が続くことを願い久米さんのサポートを始めた。

メニューブックのイラスト・オリジナルグッズのデザイン・SNSの運用はその分野が得意な常連客が担当している。誰もがこの物語の登場人物として、それぞれの得意分野で役割を担い、店を未来へとつないでいるのだ。

リビエラちゃんのイラストを使ったオリジナルグッズも販売中(筆者撮影)

「物語」の原点となった演劇

店は日常から解放される場所。お客さんの心を満たすために映画のポスターを貼っている(筆者撮影)

久米さんは徳島県徳島市出身。

関西大学工学部在学中、演劇に夢中になり一時期は役者の道を志したこともあったそう。

「工学部文学科」と仲間に冷やかされるほど文学的活動に傾倒。寺山修司や野田秀樹の作品から強く影響を受けた。唐十郎の演劇論「特権的肉体論」から学んだ“その瞬間のためにすべてがある”姿勢は、後の店づくりにもつながる。

「たとえば水を飲むシーンがあるとする。一日中水を我慢して、やっとその場面で飲んだら、それは演技やのに本物みたいにリアルになるやろ。役者はそうやって、自分の体そのものを作り上げていくんや。店も同じで、ここに自分がいること自体が物語になるって信じてるねん」

企業には定年があり努力と報酬が比例しないことや、肩書や会社の看板に頭を下げる場面が多いことに違和感を持った久米さんは就職先を決めないまま大学を卒業した。

次ページ一冊の本との出会い
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事