配属された若い部下たちは早速、6月から激しい猛暑が続いていることを理由に、テレワークをしたいと要求してきた。
「暑いとやる気が落ちます。生産性を考えれば在宅のほうが効率的です」
会社の方針では、新人はオフィス出勤が基本だ。他の課長たちは口を揃えて言った。
「放っておけ。最近の若い奴には期待しないほうがいい」
「ヘタに指導してパワハラと言われるより、放置が一番だ」
部下を放置する……。
これは確かに楽な選択肢だ。パワハラのリスクもない。自分も傷つかない。しかしこれは職務放棄ではないか。上司の仕事は部下を成長させ、成果を出させることではないか。
課長は考えた。放置では何も解決しない。かといって自分の対人能力では、うまく指導できる自信もない。
そこで部下を観察することから始めた。2人とも優秀だった。常にデータを物事の「拠り所」にして考えるクセがあるようだ。テレワークを求めるのも、生産性に関する意識調査を根拠にしていた。
「自分と似ているかもしれない」
課長はふと思った。自分も数字やデータを重視するタイプだ。感情論より論理を好む。そこで思い出したのが、ピグマリオン効果だった。
データで語り「期待」で動かす
ピグマリオン効果とは、期待することで相手が成果を出しやすくなる心理現象のこと。反対がゴーレム効果である。期待されないことで、自信や意欲が下がり、成果も出にくくなる。
思い返せば、課長自身も部長に期待されて育った。
「君は、営業向きではないが、決められたことを黙々と、キッチリこなすタイプだ。そういう人材を俺は求めてきた。期待しているよ」
そう言われて、力を発揮することができた。そんな経験があるからこそ、やはり部下を「放置」なんてできないと思った。
課長は意を決して、再び部長のもとへ向かった。
「部長、新人たちの件ですが、彼らの言い分を一度、試させていただけないでしょうか。もちろん、ただ許可するのではありません。私が責任を持って、生産性のデータを2カ月間計測し、効果を検証します。それで判断するという条件です」
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