藤沢さんは、歌舞伎町を「おもちゃ箱をひっくり返したみたいな街」と表現する。かつてはコマ劇場やスケートリンクがあり、グランドキャバレーがあった。家族連れも会社員も学生も、夜の街の人たちも混在していた。
今はキャバクラやホストやコンセプトカフェが増え、新宿東宝ビルや東急歌舞伎町タワーや歌舞伎町劇場などの新名所もできた。人びとは変わらず多様で、海外からの旅行客が夜中にベビーカーを押している風景も当たり前だ。

歌舞伎町に行けば何でもある
いつの時代も、さまざまな人やスポットが混在しているところに、街の魅力や面白さがあると笑顔で話す。
「だから、歌舞伎町に人が集まってくるじゃない。あそこに行けば何でもあるし、面白いからって。時代と共にみんなの好みが変わって、経営者はそれをキャッチしながら商売しているから、コンカフェのような新しいものもいろいろ出てくる。私たちも時代に乗り遅れないようにしながら、歌舞伎町のよいところは残していきたいなって思いますね」

取材後、筆者もピアノの前に座った。実は数年ほどピアノを習っていたことがあるのだが、鍵盤にまともに触れるのは十数年ぶりだ。かつて散々練習したビートルズの『イエスタデイ』を弾いてみたが、指はまったく動かず、暗記していたはずの楽譜も忘れていた。
何度もつっかえながらようやく1番を弾き終え、ふと後ろを向くと、なんと聴いている人がいた。ひどい演奏ですみません! 心の中で叫び、恥ずかしさで足早に立ち去る。
当面はここに座ることはないだろうが、歌舞伎町の住人たちの演奏はまた聴きに訪れたいと思う。曲もジャンルも、ピアノの経験値も、職業も経歴も、そして思いもさまざまなピアニストたちに会いに。

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