そのコンセプトは明快だ。「水害時に車内で命を守ること」。あくまで「水陸両用車」ではなく、「非常時に浮く」ことに重きを置いた設計である。
実際、FOMMの車は水上移動も可能だが、それは副次的な機能といってよいだろう。基本は24時間水に浸かっても沈まない構造を保ち、車内空間が命をつなぐ避難所になることを意図している。
FOMM ONEには前輪にインホイールモーターが搭載されており、ホイールの形状はタービンのように加工されている。これにより、車体が浮いた状態でも、前輪の回転によって水を取り込み後方へ押し出すことで、歩く程度の速度で水上を移動することができる。
もちろん、強い流れの中での操作は想定されていないが、流れのない冠水地域などでは車ごと緩やかに退避することも視野に入る。
FOMMが最初の生産拠点を構えたのはタイである。タイを選んだ理由は、部品供給網の整備、日本からのアクセスのよさ、そして何よりアジアモンスーン地帯における水害の多発性にある。
同社は「マイクロファクトリー」という概念を掲げ、東南アジア各国にフランチャイズ型の小規模工場を展開。現地生産・現地雇用によるモビリティー普及を目指した。
現在、FOMMは新型モデル「FOMM TWO」の開発を進めている。軽自動車サイズのデリバリーバン型EVで、従来のFOMM ONEよりも広い荷室と空間を確保し、より実用的な形で浮力・防水・災害対応のノウハウを継承している。2023年のジャパンモビリティショーで公開され、市場への本格参入も視野に入れられている。
FOMMの車は、災害に対する「自助」の選択肢を提示している。それは単なる浮力の実装ではなく、逃げられない人、逃げ遅れるかもしれない人の「命の時間」を稼ぐ選択肢である。
人間は浮きにくい、だから道具で浮く
住宅が浮くことで命を守る。1台の車が浮くことで浸水被害からの移動を可能にする。では、人間はどうか。
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