加えて、住宅には太陽光パネルと蓄電池、貯湯タンク式のエコキュートが標準装備されており、災害時でも一定期間は電力と生活用水を自給可能な“準オフグリッド”の設計となっている。
今後、この住宅はどのような地域で求められるのか。一条工務店の開発担当者は「かつては水害のなかった場所でも、今後はリスクが高まる可能性がある。誰にとっても自力防衛が必要になる時代」と語る。
実際、浸水想定区域内の居住人口は増加傾向にあり、損害保険会社も保険料の引き上げ方針を明言している。被害の金銭的リスクが「社会的コスト」から「個人の責任」に転嫁されつつある現実を考えれば、こうした住宅は新たなインフラ戦略として注目すべきだろう。
災害をしなやかに乗り越える建築
オランダのフローティング・シティや、一条工務店の「浮く住宅」は、水を排除するのではなく、受け入れるという思想の転換から生まれた。「沈まない建築」ではなく、「浮かぶことで災害をしなやかに乗り越える建築」──。そこには、固定された都市像に対する挑戦と、変化し続ける環境に寄り添う柔軟な応答が込められている。
また、浮体構造物にみられる「再配置性」や「モジュール性」は、都市を固定化されたものではなく、流動する暮らしのプラットフォームとして捉える発想へとつながる。水を「制圧すべき自然」ではなく、「共に生きる環境」と捉え直すこと。「浮く都市」や「浮く家」は、人間と自然との関係を再定義する可能性を秘めている。
建物が「浮く」ことによって暮らしを守れるなら、動くものが「浮く」ことで命を守るという技術もまた、災害の時代における新たな選択肢となっている。後編で紹介する「浮かぶクルマ」、そして「命をつなぐライフジャケット」……。「浮く技術」は、暮らしのあらゆる領域へと広がっている。
(後編に続く)
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