イタリアの名匠、ミケランジェロ・アントニオーニ
ミケランジェロ・アントニオーニは、若い方ならサントラにピンク・フロイドを起用した監督といえば一番ピンと来るのかもしれない。このイタリアの名匠が初めてアメリカ資本で撮った映画『砂丘』(1970年)は、「ニューシネマ」の代表的な一作として当時若者から圧倒的な支持を得ていたが、それ以前の1966年には、ヤードバーズ(クリームやツェッペリンを輩出した人気バンド)のライヴ・シーンが話題となった『欲望』をすでに撮っており、ロックサイドから注目されることの多い監督だ。ぼくも『砂丘』については音楽誌で何度か書いたことがあるが、すべてフロイドがらみの記事だった。
2007年、スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンと同日、7月30日に享年94歳で亡くなった伝説的なミケランジェロ・アントニオーニの作品は、いずれも映画史に残る傑作揃い。『太陽はひとりぼっち』(1962年)は、ツイストのリズムに乗ったミーナが歌うサウンドトラックと共に、今でもぼくに鮮烈な印象を残す。'60年代の秀作5本の丁度中間に当たる作品だ。この時期に発表した「情事」(1960年)、『夜』(1961年)、『赤い砂漠』(1964年)、『欲望』(1966年)のうち、『情事』~『太陽はひとりぼっち』の3作は、当時からアントニオーニ“愛の不毛”3部作(後々は『赤い砂漠』も加えた4部作)とされていた。
私生活においてもパートナー関係にあったモニカ・ヴィッティという存在も含め、映画界に大きな衝撃を与えたこの3部作は、「登場人物の心理や行動を一切説明せず、提示された問題や謎を何ら解決せずに終わる」というアントニオーニ・スタイルが確立された連作としても知られる。感覚的にはロマン・ポランスキーの「好きに解釈してくれて構わない。だが私に自作の解説をさせないでくれ」というインタビュー発言に近い。今回紹介した4作は、いずれも文句なしの傑作群だ。
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