遠野なぎこさんが患った「拒食症」本当の怖さとは…うつ病よりも高い死亡率、「体重を増やせばいい」という問題ではない深刻度《医師が解説》
そのようななか、青少年の治療では、家族ぐるみの治療が行われるようになっています。
6~12カ月間の外来治療で、親が子どもの摂食障害に責任がないことを伝え、子どもの体重回復を通じて指導が行われます。臨床試験では個別治療の34%に比べ、家族ぐるみの治療のほうが49%と、有効性が高いことが報告されています。
一方で、成人の場合、複数の心理療法的アプローチが存在しますが、特にこれがよいという方法は見つかっていません。現在、拒食症に対する第一選択は心理療法ですが、そのエビデンスの多くは小規模な臨床試験によるもので、効果も限定的です。
薬物療法もまだ限られています。
現在、拒食症に対する推奨薬はほとんどありません。選択的セロトニン再取り込み阻害薬やその他の抗うつ薬が試されることもありますが、拒食症患者の体重増加や心理的症状の改善が臨床研究では示されませんでした。
オランザピンという食欲刺激作用のある抗精神病薬は、わずかに効果があるようです。152人の拒食症患者を対象とした最大規模の試験では、オランザピンの使用により、プラセボと比較してBMIが月当たり0.3程度増加したものの、効果としては十分とは言えないものです。
体重の問題だけではない拒食症
拒食症は特異な病気のため、医療のなかでも扱いが難しいものです。精神疾患でありながら極端な低体重という身体的な問題を起こすため、内科と精神科の間で治療の連携が取りづらく、また専門施設も限られています。
治療の焦点が体重回復に偏重していることも、根本的な回復を妨げている一因です。
確かに極端な低体重は生命を脅かすため、医療現場ではまず体重を増やすことが最優先されます。しかし、それはあくまで出発点にすぎません。
治療効果の評価指標がBMIだけだと心理的側面の見落としにつながります。体重が増えても、強迫的な思考や自己否定感、対人不安といった心理的苦痛は残り続けるため、治療モチベーションが低下し、離脱や再発のリスクが高まるのです。
実際、拒食症では治療で体重が回復しても、1年以内に約50%が再発します。青少年を対象とした8.3年間の追跡調査では、46%が2回以上再入院しています。
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