遠野なぎこさんが患った「拒食症」本当の怖さとは…うつ病よりも高い死亡率、「体重を増やせばいい」という問題ではない深刻度《医師が解説》

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20年間におよぶ長期の研究でも、完全寛解は患者の30〜60%で、20%は拒食症の症状が残ると報告されています。この長期的な視点は重要です。拒食症は一時的な問題ではなく、長期間にわたる支援と治療が必要な慢性疾患として理解する必要があります。

文化的背景とソーシャルメディア

拒食症という病気を生み出す社会にも、我々は目を向ける必要があります。

私たちの外見重視の文化では、やせていることへの圧力は相当なもので、世界的に問題となっています。さらにソーシャルメディアはこれらの圧力を増幅し、ルッキズムの風潮に誘導してしまうプラットフォームをいたるところで作り出しています。

拒食症の世界的な発生率は、特にアジアや中東で近年増加しているといわれています。その背景には、西洋的なやせ願望の価値観が広がり、SNSの普及がこれをさらに後押ししていることがあると考えられます。

外見至上主義、完璧主義、マスメディアやSNSに演出された理想の自己といった文化的圧力は、特に遺伝的・心理的な脆弱性を持つ若者たちに深刻な影響を与えることは想像にかたくありません。

このような現在の社会的風潮は、拒食症と闘っていた遠野なぎこさんのようにマスメディアに露出する立場にある人々にとって、より大きな重荷となることもあるでしょう。

いずれにせよ、拒食症を単なる個人的なライフスタイルの選択や心の問題として矮小化しないことが重要です。心理的側面や認知のゆがみに正面から取り組み、長期的かつ個別化した支援体制の構築が必要です。

手遅れになる前に、家族や友人など周囲も病気を理解し、できる限りの手を差し伸べられる社会を目指したいものです。

谷本 哲也 内科医

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たにもと てつや / Tetsuya Tanimoto

1972年、石川県生まれ。鳥取県育ち。1997年、九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック理事長・社会福祉法人尚徳福祉会理事・NPO法人医療ガバナンス研究所研究員。診療業務のほか、『ニューイングランド・ジャーナル(NEJM)』や『ランセット』、『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』などでの発表にも取り組む。

 

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