遠野なぎこさんが患った「拒食症」本当の怖さとは…うつ病よりも高い死亡率、「体重を増やせばいい」という問題ではない深刻度《医師が解説》

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摂食障害は異常な食行動を含む精神疾患の総称で、そのなかでも極端な食事制限で病的にやせてしまう「拒食症(神経性やせ症:Anorexia nervosa)」が有名です。

拒食症・過食症を含む摂食障害は若い女性に多い傾向はありますが、年令、性別を問わず誰でもリスクがあり、国内の患者数は22万人と推定されています。

拒食症は世界的にも問題となっており、アメリカの調査でも人口の約0.8%に影響し、92%が女性と報告されています。この病気は通常思春期に始まりますが、その影響は何十年も続く可能性があります。

カロリー摂取の制限により著しく低い体重となるため、重篤な精神疾患に分類されますが、単なる心の病気と考えると、その本質を見誤ります。

まず憂慮すべき点は、拒食症がすべての精神疾患の中で、最も死亡率が高いことです。

日本では摂食障害の死亡率は約5%と、うつ病や統合失調症の3倍程度もリスクが高いとされています。 アメリカの論文では、死因は医学的合併症(このあと述べます)と自殺の両方で、自殺リスクは一般の18倍高く、拒食症患者の死亡の約25%は自殺によると発表されています。

しかし、問題は自殺だけではありません。

拒食症は、複雑で多臓器にわたる慢性的な疾患として捉える必要があり、代謝系や内分泌系、神経系、消化器系、骨格系など、あらゆる臓器に影響を及ぼす全身性の疾患なのです。

極度の栄養制限と体重減少が起こると、身体は飢餓に適応しようと必死に調整を始めます。心拍数は下がり、血圧は低下し、甲状腺ホルモンは減少、月経は停止し、骨密度は急速に低下します。脳では構造的な萎縮が進み、思考の柔軟性が奪われていきます。

このような生理的な変化は生命維持のために必然的に起こる現象ですが、やがて生命にも関わる連鎖反応を招くこともあるのです。

拒食症がもたらす全身への影響

拒食症の合併症はすべての臓器系に影響し、命に関わります。

特に心血管系への影響は深刻です。

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