遠野なぎこさんが患った「拒食症」本当の怖さとは…うつ病よりも高い死亡率、「体重を増やせばいい」という問題ではない深刻度《医師が解説》
栄養不足から慢性的な飢餓状態に陥ると、脈拍が極端に遅くなる徐脈が重篤化し、睡眠中に心拍数が危険なレベルまで低下します。不整脈などから突然死のリスクが高まることになります。
内分泌系では甲状腺機能が深刻な影響を受け、代謝機能が不活発になります。また、生殖ホルモンが抑制され、女性の8割近くで無月経が生じます。成長ホルモンの分泌も影響を受け、特に思春期の患者では発育に問題が生じることもあります。
骨の状態も急速に悪化します。患者の約3分の1で骨粗鬆症が発症し、骨折のリスクを高めます。特に若い患者では、若いときに獲得されるべき最大骨密度 (骨密度が生涯の中で最も高くなる、おおよそ20代後半での値)が達成されないため、生涯にわたって骨折リスクが高まります。
消化器系では胃内容物の排出が遅れることにより、食後の満腹感や腹部膨満が生じます。便秘が慢性化し、腸管運動の低下が見られます。
「脳」への影響も懸念されます。
実際に脳の画像検査を行うと、脳が萎縮するなどの変化が認められます。これらの変化の一部は体重の回復とともに戻る可能性がある一方、脳の構造変化に伴って、拒食症に特徴的な柔軟性のない思考パターンが持続するのではないかと考えられています。
さらに最近の研究により、拒食症には遺伝的な要因があることもわかってきました。
遺伝要因と環境要因を区別できるふたごの研究では、遺伝率が50~60%と推定され、ゲノムの研究では関連する8つのリスク遺伝子の変異が特定されています。これらの変異は、ほかの精神疾患や低BMI(Body Mass Index:18.5未満が低BMI)、代謝異常とも関連しており、拒食症が精神的な原因だけではないことを示しています。
つまり、拒食症は単に心の弱さや、やせ願望から生じるのではなく、遺伝などにも関係する疾患だと理解されるようになってきているのです。
難しい大人の拒食症の治療
拒食症の治療はなかなか困難で、これをすれば良くなる、という単純な方法がありません。すべての精神疾患の中で最も高い死亡率を持つのに、残念ながら、効果的な治療法がほとんどないという厳しい現実があります。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら