並んでいるのをじろじろと見られたり、早めに行ったのに1人目になれなかったり。それでも続けているのは、人とのコミュニケーションが楽しいからだそうだ。
「初日で忙しいにもかかわらず、店員さんから声をかけていただけると本当にうれしいですね。自分の存在を肯定してもらえた気がして。
開店前のバタバタした状況の中で並ばれるのは正直うっとうしいこともあると思うんですよ。それでも僕の存在を楽しんでくれたり、優しく接してくれるお店には2度3度と足を運びたくなりますし、実際何度も利用させてもらっているお店もあります」

コスパ・タイパだけの世界は‟面白くない”
涌井さんの「1人目の客になる」という趣味を聞いたときの周りの反応は2つに分かれるという。面白がってくれる人と「何が楽しいの?」「それで?」と言う人だ。
仕事を前倒しで終わらせてまで店に行き、そこから40分並び、飲食や買い物をする。それ以上でもそれ以下でもなく、見返りを期待しているわけでもない。そんなコスパ・タイパ重視の風潮に逆行するような涌井さんの趣味は、奇妙に写るのだろう。
「でも、バッティングセンターに行く人に『プロ野球選手になるためにやっているの?』と言う人はいませんよね? 僕の趣味も同じです。店ののれんをくぐったらゴール。それが楽しいからやっているだけです。楽しんでやる趣味に意味や思いはなくてもいいと思っています」
だから、涌井さんは「コスパ」「タイパ」という言葉が苦手だ。
「コスパやタイパは無駄なものをそぎ落とそうとする行為ですよね。でも、面白い世界は、きっと自分の想像の外にある。合理的で効率的なだけでは、世界は面白くならないと思っています」
涌井さんはオープンした店の1人目の客になるという「縛り」を設けたことで、生活の自由度が増したと感じている。
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