【独自】ホスピス住宅最大手・医心館に「がんの父」を託した娘の疑問。転移なし・ステージ2だが末期がん扱いで訪問看護、会社側は不正を否定

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「大きな合併症はありませんでしたが、術後、高齢のためか全身状態の衰弱があり、術後の影響、または認知症によるせん妄が見られており、その後も認知機能の低下がある状態でした。誤嚥(ごえん)、発熱も見られており、全身状態を加味して『治癒を目指した治療が困難となり、症状緩和やQOL(生活の質)の維持に重点が置かれる段階』という臨床的な判断に基づいてこのように判断いたしました」(一部、読みやすいように編集)

だが、A医師の書いたカルテには全身状態の衰弱などに関する記載はなく、それががんの悪化によるものなのかを検査した形跡もない。体温も36度台だ。当時の父親の要介護度は1と身体機能の衰えは軽微で、食事や施設内で立ち歩くこともできるほどだった。

アンビスにも、医師に末期がんと診断するよう依頼した事実はあるかなどを質問した。すると、管理本部本部長の山口真吾取締役が取材に応じた。

山口氏は「当社から訪問診療医に対し、訪問看護指示書に記す傷病名をがん末期とするよう依頼や相談をした事実は一切ない。仮にそうした行為を確認すれば、処分の対象となる」と、否定する。

そのうえで「訪問看護指示書は医師がその責任において記載する書面であって、本件についても総合的な判断から末期がんとしたのだろう。当社が診断の是非について意見を言う立場にはない」とした。

もっとも、A医師の初診があったのは医心館に入居した当日だ。その前段階で、病院を訪問した看護師が佳代子さんに入居が可能であると伝えている。佳代子さんが父親の入居1週間前に施設を見学した際にも、医療保険による訪問看護サービスの自己負担額について説明されている。

つまりA医師が診察する前から、医心館は父親を末期がん患者として受け入れることを想定していた可能性がある。

アンビスは調査委員会を設置

アンビスは共同通信の報道を受け、3月27日に特別調査委員会を立ち上げて不正な診療報酬請求の実態を調査中だ。5月15日に予定されていた決算発表も現時点まで延期されている。

それ以前には、同じくホスピス住宅大手のサンウェルズも不正を指摘する報道を受け、2月に特別調査報告書を公表。不正請求の額は少なくとも28億円に上ると試算されている(詳細は「ホスピス住宅『儲け至上主義』で不正行為が蔓延」参照)。

大手の成功例を受けてホスピス住宅には新規参入が相次いでおり、業界には不正が蔓延している可能性がある。訪問実態とは異なる報酬請求のみならず、幅広く認められた医師の裁量の下で本来はその対象とならない利用者にも医療保険を適用する行為がまかり通っていないだろうか。

病院にも自宅にも行き場のない終末期の高齢者の「受け皿」として、ホスピス住宅の社会的な存在意義は高まっている。業界の健全化が急がれる。

本記事の詳報版は、東洋経済オンライン有料版記事「ホスピス住宅最大手・医心館に『がんの父』を託した娘の疑問。転移なし・ステージ2なのに末期がん扱いで訪問看護、会社側は不正を否定」でご覧いただけます。
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印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界、総合電機業界などの担当記者、「東洋経済オンライン」編集部などを経て、現在は『週刊東洋経済』の巻頭特集を担当。過去に手がけた特集に「半導体 止まらぬ熱狂」「女性を伸ばす会社 潰す会社」「製薬 サバイバル」などがある。私生活では平安時代の歴史が好き。1児の親。

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