【独自】ホスピス住宅最大手・医心館に「がんの父」を託した娘の疑問。転移なし・ステージ2だが末期がん扱いで訪問看護、会社側は不正を否定
そもそも訪問看護指示書には末期がんと書いたA医師も、カルテにはその旨の記載をしていない。病歴として、あくまでB医師からの紹介状に沿った内容が記されるのみだ(写真)。
末期がんの診断基準とは?

がん治療を専門とする日本医科大学武蔵小杉病院教授の勝俣範之医師は、末期がんと診断する医学的な基準を以下のように説明する。
「①進行がんである(転移がある)、②がんによって全身状態が弱っている、③死期が近い、などの場合、末期がんであると診断します。一般的に、ステージ2のがんを切除し、再発も転移もない患者を画像診断もせずに問診のみで末期と診断したのなら、誤診に当たります」
こうした基準も、医師によって裁量の幅がある。在宅診療医で、医療法人社団・悠翔会の理事長の佐々木淳医師はこうも指摘する。
「『末期がん』に具体的な診断基準は存在しません。実態としては、病気の重症度・進行度などの医学的・客観的所見によって決まる、というよりは医師の裁量の中で診断するという側面が大きい」
「進行がんだけれど食事はできている、排泄や清潔ケアなど、ある程度自立して日常生活が送れている、3カ月以上は生存することが見込めそうといった場合は、あえて『末期』という診断をつける必然性はないように思います」
A医師はなぜ、末期がんと診断する必然性のない父親を、そう診断したのだろうか。関わってくるのが医心館のビジネスモデルだ。
要介護者の訪問看護サービスは、通常介護保険から給付される。だが、厚生労働大臣の定める20の疾患、通称“別表7”に該当する場合、介護保険ではなく医療保険が適用される。末期がんもその1つだ。
医療保険による訪問看護の特徴は、事業者の収入となる診療報酬に制度上の上限がないことだ。
介護保険での訪問看護は、要介護度に応じて利用限度額がある。一方、医療保険ではそれがない。病状に応じて、週7日、1日3回まで報酬を請求することができる。さらに複数名で訪問をする、早朝や深夜に訪問するといった場合は、そのつど加算報酬も受け取ることができる。手厚い緩和ケアを必要とする人のために設計された制度といえる。
アンビスはこの訪問看護の仕組みを「ビジネスモデル」として確立し、急成長して2023年に東証プライム市場に上場した。売上高の約6割は訪問看護サービスによる診療報酬が占め、あとの3割は訪問介護による介護報酬、1割が家賃や食事代だ。
ただ、利用者の状態や訪問実態と関係なく1日3回、複数名で訪問看護に入ったと記録し、不正に診療報酬を請求していた疑いがあることは3月以降、共同通信が複数回にわたって報じている。
高額な診療報酬がかかっても、利用者の負担は高額療養費制度や指定難病患者への医療費助成制度によって低額に抑えられるため、気づかれにくい。佳代子さんの父親の場合も、訪問看護による医療費の自己負担は月額1万8000円だった。
直近の2024年9月期の営業利益率は約25%。利益率が1桁台前半の介護事業者が多い中で、頭ひとつ抜けて高収益だ。
このビジネスモデルを成立させるために不可欠なのが、"別表7"に該当する患者を集め、主治医に訪問看護指示書を出してもらうこと。
そのため営業を担当する「地域連携部」の看護師は急性期病院や緩和ケア病棟のある病院などに営業をかけ、患者を紹介してもらう。佳代子さんの父親と病院で面会した看護師も、地域連携部に所属していた。
複数のアンビス元社員の証言によれば、地域連携部の看護師は相談者の状態を確認したあとは原則、柴原慶一CEOに直接連絡をし、報告をする。ここで柴原氏がゴーサインを出せば入居を促していく、というのが通例だ。
入居の最重要条件は、医療保険で訪問看護ができること。入居者を集められずにノルマを達成できないと、柴原氏から厳しい言葉をかけられることもあったという。
こうしたプレッシャーもあってか、地域連携部の看護師は末期がんとはいえない患者も受け入れ対象としてきた可能性がある。
アンビス元社員はこう証言する。
「高齢者の場合、がんの検査をすることが本人の負担になるなどの理由で『がんの疑い』という診断がつくことがあります。患者を早く退院させたい病院側がそれを『末期がん』として(紹介状を)書いて医心館の入居条件を満たすようにしたケースがありました。入居させたい医心館と退院させたい病院の連携行為であり、そこにモラルはありません。医心館への入居時に、主治医を依頼した訪問診療医が病名を『末期がん』に変えることもありました」
医師にとっても実利がある。入居対象となる疾病の診断をつければ、医師は医心館の紹介を受けて患者を抱え込むことができるからだ。ましてや医心館のような集合住宅型の施設の場合、一軒一軒訪問診療をするより圧倒的に効率がいい。
東洋経済は、佳代子さんの同意のうえでA医師の勤務するクリニック宛てに書面を送り、父親の訪問看護指示書に記した傷病名や、末期がんと診断した根拠などを質問した。すると、末期がんと診断したことを認めたうえで文書でこう回答があった。
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