それでも「同じ年の子がもうペラペラ話している」と聞くと、不安になるのは当然でしょう。でも少し考えてみてください。例えば、自分自身は、何歳で初めて文章で話せるようになったか、覚えていますか? おそらく多くの人が「気づいたら話していた」と思うはずです。ということは、最終的にはほとんどの子が、支障を来さないレベルのコミュニケーション能力は獲得しているということなのです。
問題になるのは、社会が作り出した「標準的な成長スケジュール」という目に見えない枠組みに、わが子を無理やり当てはめようとすることかもしれません。成長の速度は十人十色であるにもかかわらず、「4歳ならもうこれくらいは話せるはず」といった“目安”に照らして、「うちの子は遅れている」「何か問題があるのでは」と判断してしまう。こうして本来は問題ではない個性や特性が、「問題」としてラベルづけされてしまうのです。
親の不安のほうが子どもに悪影響を与える
今回ご相談いただいた山本さんも「私の接し方が悪かったのではないか」とご自身を責めていらっしゃいますが、子どもの発達は親の育て方だけで決まるものではありません。遺伝的な気質、神経発達のリズム、家庭環境、家族構成、外の世界との関わり方など、無数の要因が影響し合って子どもは成長していきます。
とはいえ、親の不安は知らず知らずのうちに言葉や態度に表れてしまい、それが子どもに影響を与えることがあります。たとえば、「なんで話せないの?」「○○ちゃんはあんなに上手に話せるのに」と繰り返し言われたら、子どもは「自分は劣っている」「話すのは怖いことなんだ」と思い込んでしまいます。逆に「この子はこの子のペースで成長している」と心から信じて接していれば、子どもは不思議とのびのびと育っていきます。
実際に言葉がゆっくりな子どもたちの中には、他の力がぐんぐん育っているケースが多々あります。観察力が高い、空気を読む力がある、絵や音楽、運動などの非言語的な表現が得意など、言葉以外のルートでコミュニケーションを築く力が伸びているのです。言葉はあくまでも“数ある表現手段のひとつ”であり、すべてではありません。
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