親の気持ちにもっと寄り添うため、ママ友ドクターに

――現在は「子ども発達相談アカデミーVARY」を主宰し、発達特性のある子どもを持つ保護者の支援を行っていると伺いました。保護者の支援を始めるまでの経緯を教えてください。

西村佑美
西村佑美(にしむら・ゆみ)
小児科専門医、子どものこころ専門医/一般社団法人 日本小児発達子育て支援協会 代表理事/日本大学医学部附属板橋病院小児科研究医員
最重度自閉症の姉を持ち医師を志す。大学病院に勤務し発達診療を学ぶ中で第一子の発達特性に合わせ療育や英語教育を受けさせた。その経験から大学病院で専門外来新設。2020年、第三子出産後にママ友ドクター®活動や「子ども発達相談アカデミー VARY」など独自支援を展開。2024年、Gakkenから本を出版、協会設立
(写真は本人提供)

私は最重度自閉症の姉と育ちましたが、40年以上前は今ほど発達障害や発達特性のある子どもに理解のある世の中ではありませんでした。そのような子どもが通うのは小児科や発達専門の相談機関ではなく精神科で、薬で困りごとを治療をしようとしていた時代。自閉症は親の愛情不足のせいと誤解されていた時代でもあり、母も周りから責められることもあったそうです。

しかしここ10年で状況は変わってきました。研究や理解が進み、発達障害として治すべき精神科的な病気ではなく、発達特性は生活と教育環境を整えてあげることで強みや個性、才能として伸ばしていこうという考え方に変わりました。私自身、そのような親子をサポートしたいと思い小児科医になりました。その後、今でこそしっかり者に育った長男ですが、幼少期は言葉の遅れや多動などの特性が目立ち育てるのに苦労したので、母としての経験も沢山積みました。しかし、専門医として診療室にいると、あくまで医師視点の話しかできず、同じように子育てに悩む親として目の前の親の心に親身に寄り添うことができないと葛藤するように。

接し方を変えるだけで子どもの将来が変わることを伝え、もっと親身になって相談にのりたいと考え、まず2020年に「ママ友ドクター」プロジェクトを始動しました。

――具体的にどのような活動をされているのでしょうか?

スタート時はコロナ禍ということもあり、インスタライブや個別でのオンライン相談会、セミナーなどを中心に開催。“ママ友”として私自身の体験などを聞かれることも増え、アドバイスをすることも増えました。そして2022年に、ママのためのオンラインコミュニティ「子ども発達相談&ゼミVARY」を設立しました。

親は「自分の子どもは普通とは違うかもしれない……」と悩んでしまうとネガティブになり、誰にも相談できずに孤独になってしまいがちです。コミュニティを設立したことで「一人じゃない」「同じことで悩んでいるママ友がいた」と勇気をもらった方も多く、気づくと海外6か所を含め全国にのべ140人の大人数に。そこから2023年には私のような小児科医やその他の専門家、そしてメンターのように活躍できるママ達を増やしていくため、「子ども発達相談アカデミーVARY」へと発展していきました。

親の子どもへの「肯定的な注目」で、子どもの特性を伸ばす

――発達特性のある子どもの育児で、西村先生が大切だと考えていることを教えてください。

親は自分の子どもに発達特性があり普通とは違うとわかると、将来に不安を感じ思い落ち込んでしまいます。でも、豊かな発想力や個性が求められる今の世の中で、普通でないことは決してマイナスなことではありません。例えば集団行動は苦手でも漢字の書き取りは誰よりも上手など、みんな必ず得意なことがあるはずです。子どもの特性を活かしてきちんと伸ばすことができれば、むしろ将来が楽しみになると私は思います。そのためにもぜひ行ってほしいのが、「親の子どもへの肯定的な注目」です。

親は子どもがすることのすべてが目に入ってしまい、そのすべてをしつけなければと思ってしまいます。そうではなく、まず子どもの行動を①増やしたいこと、②減らしたいこと、③やめさせたいことの3つに分ける習慣をつけましょう。

③は車道に急に飛び出す、他人を傷つけるなど絶対にすぐにやめさせたい行動で、これについては躊躇なく注意してやめさせるべきです。②は片付けない、大きな声で騒ぐなど、やめさせたいけれどどうしてもすぐに止めさせなければいけないわけではない行動。①はお手伝いをしてくれるなどほめたい行動や、一人で着替えをするなど、当たり前の行動だけど親として子どもに増やしてほしい行動です。

①の行動を親はとにかく声に出すようにしましょう。あえてほめる必要はなく、「ご飯を食べているね」、「ボタンがかけられたね」、「座れたね」など、ナレーションするだけでよいのです。そうすると子どもは「親が自分を見てくれている、うれしい、もっとやってみよう」と思うようになり、考え方が前向きに。もっとほめてもらうにはどうしたらいいのか、考える力が身につくようになります。

――②の減らしたいことについてはどうしたらいいのでしょうか?

減らしたいことについては、例えば「注目しない叱り方」がおすすめです。子どもは注意されると、たとえ悪いことでも「親が自分に注目している!もっとやってみよう」と思ってしまうもの。他人に迷惑をかけないような困った行動であれば、親がその行動を無視したり注目しないことで子どもも「これは違うんだ」と徐々に気づき、行動をちょっとだけ変えます。すなわち、その小さな変化こそ「増やしたい行動」。叱ることなく、行動を変えられたことをすぐにほめて、肯定的に注目してあげましょう。

『発達特性に悩んだらはじめに読む本』
(出典:西村佑美 著『発達特性に悩んだらはじめに読む本』(Gakken)p55「注意引きの困った行動編」)

この方法は親にとってもメリットがあり、叱ることが減ることで自己肯定感が上昇するのです。子どもを叱ったり指示を出しても言うことを聞いてくれず、「自分が親としてダメなのではないか」と凹むことが少なくなります。

――ほかにもおすすめの接し方はありますか?

「アイコンタクト×笑顔」です。特性のあるなしにかかわらず目を合わせて話すのが苦手な人は一定数いて、身につきづらい習慣。幼少期から、目が合ったら笑顔になる、親は子どものお願いを聞くときに目が合ってから対応することなどを続けると、子どもは目を合わせるといいことがあると思うようになります。好きなパパやママが笑ってくれると子どもは嬉しいので、目を見る習慣がつきます。すると少しずつ周囲の状況や空気を読み取る力が育ったり、パニックになりにくくなるなどの効果が得られると言われています。

できたことをノートに書いて小学校入学を楽しみに

――春の小学校入学に向けて、不安を抱えている親も多いと思います。4月までになにかやっておくべきことはありますか?

大切なのは子どもに小学校に行くのが、わくわくして楽しいことだと思ってもらうこと。取り組む内容は人それぞれだと思いますが、焦らずに子どもの気持ちを上げていくことが大事なので、「がんばりなさい」という言葉は使わないようにしましょう。

発達特性のある長男のノート
西村氏と発達特性のある長男が使っていたペンとノート(写真は西村氏提供)

おすすめなのは大切に使いたくなる少しいいノートや手帳を1冊買って、小学校に行くためにやることやできたことを記録すること。

「ひらがなの練習」などちょっと難しいことから、「友達と仲良くできた」など簡単なことまでなんでもOK!事前に約束を書いておくのもいいし、できたことをその場で日記のように書いてからシールを貼って、毎日持ち歩いてください。できたことで埋まっていくノートを見ると、子どもも自信がつきモチベーションが上がって、小学校へ行くことがどんどん楽しみになっていきます。

私の息子も発達特性があるのですが、年長になった頃から入学まで1冊のノート(手帳)を作りました。息子にとってノートは今でも頑張った証しとして、宝物になっています。

西村氏のノート
小学校に行くためにやることや、できたことなどが記録されている(写真は西村氏提供)

――入学してからも思うように進まないことが起こったら、どうしたらいいのでしょうか?

もしかしたら子どもが「学校に行きたくない」と言うかもしれませんよね。それ以外にもうまくいかないこと、やりたくないことが出てくるかもしれません。そういうときに大切なのは親が視野を広げて、たくさんの選択肢を用意してあげることです。「子どもが学校に行けなくなった、どうしよう」ではなく、家庭教師やフリースクールなど他の選択肢を親が先回りして用意しておけばいいのです。

私の息子の場合、計算が他の子どもよりも極端に苦手でした。でも視覚的にものを理解する能力は高かったのでそろばんを習わせると、時間はかかりましたが計算が上手にできるようになりました。目的は計算ができるようになることなので、方法はなんでもいいのです。子どもの特性に合わせた得意な方法が見つかるように、選択肢を持っておくと安心だと思います。

――発達特性を持つ親御さんにアドバイスがあればお願いします。

自分の子どもが普通とは違うと思っても、諦めないでください。普通ではないことはこれからの時代ではきっと強みになるので、親が子どもの得意なことを見つけて伸ばしてあげましょう。そうすれば子育てがもっとワクワクしたものになるはずです。

もし普通ではないかもしれないと思っても、焦ることはないですよ。病院で診断してもらうことばかりにとらわれると、視野や子どもの将来が狭まってしまうかもしれません。子どもへの接し方を今日から変えるだけで、子どもの将来も大きく変わります。そのためにもぜひ、医学や心理学に基づいた子どもの伸ばし方を知っているといいなと思います。

(文:酒井明子、注記のない写真:Ushico / PIXTA)