授業で生成AIを活用するために必要な「2つの準備」

私は、「教師の仕事」(関連記事)と「生徒の学び」、両面で生成AIを活用しています。本記事では、「生徒の学び」にフォーカスを当て、実際の授業実践を紹介したいと思います。

授業で生成AIを使っていくためには、準備が必要です。私は、最初に以下の2点に取り組みました。

1:どの生成AIを使用するかを検討

まずは、生成AIの活用について管理職の同意を得て、どの生成AIを使用するかを検討しました。私はChatGPTのAPIを使ってオリジナルのチャットボットを開発し、職員会議での提案を経て採用に至りました。

しかし、独自開発は特殊な例だと思います。既存のサービスから選ぶ場合は、代表的なChatGPT、Copilot、 Geminiを検討してみてはいかがでしょうか。この3つの生成AIの特徴は、以下のとおりです(2024年2月18日時点)。勤務校はMicrosoftを使っており、私が有料版まで試してみたChatGPTとCopilotの結果も含めてまとめているので、よかったら参考にしてみてください。

おすすめは、Copilot。GPT-4が無料で使えるうえに、サインインせずに連続5回までやり取りができるので、導入のハードルが低いと思います。「連続5回のやり取り」が終わっても、「新しいトピック」を開始できます。やり取りの内容は引き継げませんが、Copilotを使い続けることができるのです。生徒の生成AIの使用状況を見ていると、5回のやり取りでもとくに問題はなさそうです。

実は、学校で使用する生成AIを選定するとき、生成AIの使用に必要なアカウントの作成がかなり高いハードルになっています。そのような面からも、現時点ではサインインせずに使用できるCopilotがおすすめです。

ただし、今後、各生成AIが児童生徒用アカウントでのサインインに対応すれば選択肢は広がります。Google Workspace for Educationを使用している学校はGoogleのアカウントがあるので、Geminiも選択肢に入ってくるでしょう。

2:保護者宛文書を配布して承諾書を得る

次に、生成AIの利用について保護者宛文書を配布して、承諾書をいただきました。OpenAI社の利用規約には、「18歳未満がサービスを使用する場合は、親または法定後見人の承諾が必要」との記載があるため、管理職やほかの教職員だけでなく、保護者の承諾も必要になります。

保護者宛文書の例

生成AIを活用して「英作文をブラッシュアップ」!

具体的な事例として、まずは私が担当する英語科の実践を紹介しましょう。対象生徒は高校1年生と2年生で、どちらも英語コミュニケーションⅠ・Ⅱの授業で実施しています。

どんな実践かというと、生成AIを活用した英作文のブラッシュアップです。生徒たちは、「与えられたテーマについて、アイデアを出す」→「AIを使わずに英語で文章を書く(辞書は使用可)」→「AIからフィードバックをもらいながら修正する」といった手順で英作文を書いていきます。

生徒たちには、あらかじめ下記の英作文添削用のプロンプト(GPT-4を使用)を共有し、最後に自分が書いた文章を入れて送信するだけで、フィードバックが得られるようにしています。

【英作文の実践で使用しているプロンプト】

You are an excellent English teacher.
Please provide feedback on the essay written by your student.
Your goal is to help students become better writers of English.
# TASKS
Execute the following tasks step by step. These steps must not be printed out in the output.
Step1: Translate the student's essay into Japanese.
Step2: Review the essay and list all sentences that violate the principle of having only one subject and one verb per sentences and explain why they violate.
Step3: Review the essay and list grammatical mistakes other than what listed in Step 2.
Step4: Rewrite the essay using vocabulary suitable for the CEFR A1 to A2 levels.
Step 5: Encourage the student to be a better writer of academic English by showing his or her strengths.
# Output
Print out the following three outputs. Original text is written in English, and explanations are written in Japanese.
1.書かれている内容の確認:
2. 文法的に大きく問題がある箇所:
3. その他の文法上の問題点:
4. 修正案:
5. Comment:
# Input:
[ここに生徒の英作文を入れる]

 

この実践を通じてまず実感するのが、テンポのよさです。生徒一人ひとりが英作文を書いて、それを添削してもらい、書き直すという一連の流れが授業内でできてしまうなんて、生成AIがなければ考えられません。もし、教師が40人の英作文を添削していたら、返却までに1週間は欲しいところです。

生成AIのフィードバックを電子辞書で確認する生徒たち

また、生成AIが出してきた添削結果について、「例文をもっと提案して」「ここはなぜ間違いなのですか」といったように納得するまで質問することができるのも魅力的です。

生徒たちによれば、「すぐに添削結果が返ってくるのでよい」とのこと。また、「 『I think』を毎回 『I believe』 などに修正されるから、意識していろんなパターンを使うようになった」という声も挙がっており、英作文を行う頻度を増やせる点も生成AIを使う大きなメリットであると感じています。

「総合的な探究の時間」のサポートに活用

私は、学校全体の「総合的な探究の時間」を計画・実施する立場にもあるので、生徒たちがグループで探究活動を行う際にも生成AIを取り入れています。

勤務校の総合的な探究の時間では、「地元」に関連した探究課題を設定して探究活動に取り組むのですが、今年度、私は「探究活動を進めていく中で困ったことがあれば、生成AIに相談するのも1つの手だよ」と生徒たちに伝え、生成AIの使い方を紹介しました。

あくまでも探究活動をサポートするツールの1つという位置づけで、強制していません。そのため、2〜3割程度のグループが使用しているような状況です。しかし、実際に使用している生徒たちは、本当にさまざまな疑問や相談を生成AIに投げかけています。

生成AIに相談する生徒

例えば、地域の課題について「人口が減少している原因は?」と尋ねたり、探究活動の方法について「地域の方にアンケートを取りたいのですが、どこで実施したらいいですか?」と相談したりしています。

そうした生徒たちの活用において印象的だったのは、生成AIの出力結果を「考えるための材料」として使っているということ。出力結果を見て、「賢いなぁ! そうか、その手があったか」「この観点で掘り下げたらもっとおもしろくなりそう」とグループ内で話し合っているのです。

授業での生成AI活用、「教師が意識すべき3つの問い」

このように生成AIを積極的に活用している私ですが、生徒たちが生成AIを使うことに対して、「心配がない」と言ったら嘘になります。そのため、私は生徒たちの様子を見ながら、次の3つの問いを意識して指導しています。

1つ目の問いは、「生成AIの出力は本当に正しいか」ということ。やはり生成AIを使っていくうえで、誤った情報を出力する恐れがあることは避けられません。生徒たちが出力結果を批判的に見ることができるように、「生成AIは一般的な話をしているけど、これって本当に地元にも同じことが言えるのかな?」「辞書でも確認してみよう」などと働きかけ、支援しています。

2つ目の問いは、「生成AIの出力が伝えていることは何か」ということ。出力結果を見て、わかったつもりになっていることもよくあるので、「この言葉はどういう意味?」「つまりどういうこと?」と教師が問いかけ、生徒たちが考える時間を取ることも大切です。

そして3つ目の問いは、「生成AIの出力にない視点はほかにないか」ということ。「ほかにどんな問題がある?」「この問題なら〇〇って人が取り組んでいるけど知ってる?」といった問いを投げかけ、出力結果以上に視点を広げてあげるのも教師の役割だと考えています。

とくに、生成AIが取り扱うことができない情報も学校での学びには必要で、「ローカルな情報」と結びつけることが大切です。例えば、これまでにどんな学びを経験してきたのか、ほかの教科で今どんなことを学んでいるのか、住んでいる地域の魅力や課題は何かなど、インターネット上にはない、ローカルな情報がたくさんあるはずです。これらを生徒の学びとつなぐことで、学んだ知識が実生活と結びつきます。

なぜ授業で「生成AI」を使うのか?

最後に、「なぜ授業で生成AIを使うのか」という問いについて、私の考えを述べたいと思います。

まず、私たちが指導している生徒が社会に出る頃には、生成AIを使用するのが当たり前の世の中になっていくと考えられるからです。産業界を中心に、「これからの時代は生成AIを使えるかどうかで差がつく」という話もよく耳にします。

一方で、生徒たちは生成AIにあまり興味を持っておらず、使ったことがないという生徒が大半です。それならば、生成AIに触れる機会を持つことが、生徒にとってプラスになるのではないかと考えています。

また、生成AIというと、課題などの「答え」をすぐに出してくれるツールとして捉えている人も多いかもしれません。もちろん、そうした一面があることは間違いないのですが、「答え」を一緒に作り上げる相談相手という面もあるのではないでしょうか。

相談相手として活用することにより、生徒がより深い学びを実現できる可能性も十分あると思っています。例えば前述のように、英作文を書く際に生成AIを使えば、「この単語の使い方をもっと教えて」「次の表現のニュアンスの違いは」といった相談を繰り返しながら、より自分の思いを伝えることができる文章を作り上げていくことができます。

私は冬休みに、生成AIと一緒に英作文を仕上げるという課題を出したこともあります。このように、家庭学習での活用も認められれば、新しい学びが可能になるでしょう。

最近では、プレゼンや意見交換、ポスター制作など、自分の考えや思いを伝える言語活動も増えてきています。その際、教師が支援を行うわけですが、1対40人の授業では限界があります。少しでも1対1の個に応じた支援を行うためには、生成AIの力を借りないと難しいでしょう。

このように生成AIを活用することで、これまで人手や時間の制限で実現できなかったことも可能になりますし、生徒の学び方は大きく変わっていきます。

南部久貴(なんぶ・ひさき)
滋賀県立高校教諭
2018年より、滋賀県で英語科教諭として勤務。ICTを活用した教育に関心があり、2022年度には、滋賀県のICTコアティーチャーを務めた。最近では、ChatGPTを活用した教育に関して、単行本や雑誌記事の執筆などを行っている。著書に『ChatGPT×教師の仕事』(明治図書出版)がある
※本記事の内容は、あくまでも個人としての見解です

(画像と資料:南部氏提供)

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