文章・画像・動画・音声生成など生成AIはさまざま

生成AIは、教育のあり方を大きく変える可能性を秘めています。

吉田塁(よしだ・るい)
東京大学大学院工学系研究科 准教授
東京財団政策研究所 主席研究員。博士(科学)。専門は教育工学、生成AI、アクティブラーニング、オンライン学習、ファカルティ・ディベロップメント。東京大学教養学部特任助教、東京大学大学総合教育研究センター特任講師を経て、2020年より現職。訳書・著書に『学習評価ハンドブック―アクティブラーニングを促す50の技法』(監訳)、『教師のための「なりたい教師」になれる本』(共著)などがある。オンラインにおける意見交換プラットフォーム「LearnWiz One」を開発し、世界最大の EdTech コンペティション GESAwards 2021 研究開発部門にて世界大会優勝し、開発に携わった学生と起業。株式会社 LearnWiz 取締役・共同創業者。Manabi AI(まなびあい)教育×生成AIポータルサイトを運営
(写真:本人提供)

大学教員も、その可能性と課題を理解し、教育や研究の質向上に役立てることが重要になってきています。ここでは、生成AIの基本から具体的な活用例や注意点を解説します。

生成AIとは、データに基づいて文章や画像、音声など、新しいコンテンツを生成する人工知能のことです。

例えば、文章生成AIの代表例であるChatGPTは、人間との自然な対話を通して、求められた内容に沿った文章、翻訳、プログラムコードなどを生成することができます。

生成AIは、その種類も多岐にわたります。有名なChatGPTのような対話型の生成AIだけでなく、画像生成AI、動画生成AI、音声生成AIなど、さまざまな種類が存在します。

近年の生成AIの進化は目覚ましく、その性能は向上し続けています。例えば、ChatGPTの基盤モデルであるGPT-4は、アメリカの司法試験において、上位10%に入る成績を収めています。

しかし、生成AIは万能ではありません。簡単な計算ミスをするなど、まだ完璧な存在とは言えません。生成AIはあくまでも、人間の思考や活動を補助するツールとして捉え、その結果を鵜呑みにせず、批判的に検証することが重要です。

学生は生成AIをどのように使っているか?

大学教員としては、学生がどのように使うのかを知っておくことも重要ですので、学生視点の活用例についても紹介します。

最初に思い浮かぶのは、不正に利用されることかと思います。例えば、以下のような不適切な活用例が考えられます。

• レポートの自動生成

レポート課題の情報などを与えて生成AIにレポートを自動生成させます。ある程度のクオリティの文章が得られるとそのまま提出する学生も出てくる可能性があります。そのため、生成AIが自動生成しにくい課題にすることをおすすめします。例えば、課題に図を取り入れる、実験やフィールドワークを取り入れる、授業特有の専門的な内容を含めるなどが挙げられます。

• 選択式問題への自動回答

 生成AIは、選択式問題が入力されると正解を出力することがあります。ただし、問題によっては正解できないものもあるため、すべての選択式問題が不正に解かれるわけではないですが、不正に解かれる可能性があることも念頭においたほうが無難です。

 

ここまでは、不正利用についてフォーカスして説明しましたが、学習を促進させるような使い方も可能です。例えば、以下のような例が挙げられます。

• 自分専用の教材作成

例えば、英語が苦手な学生であれば、苦手な単語をリストアップし、それらを使った例文を生成AIに作成してもらうことで、より実践的な学習が可能になります。

• 自作のレポートに対するフィードバック

完成したレポートを生成AIに入力し、「このレポートの内容について、改善点や追加すべき点などを教えてください」といった指示を出すことで、フィードバックを得られます。

 

ほかにも課外活動の場面で使うことも考えられ、活用の幅は非常に広いです。

教員は業務効率化や質の向上を実現できる可能性がある

大学教員は、教育活動、研究活動、事務作業など、さまざまな業務で生成AIを活用することで、業務効率化や質の向上を実現できる可能性があります。以下に例を挙げます。

<授業関連で使う>

• シラバス作成の効率化


生成AIに授業の概要や学習目標を入力することで、基本的なシラバスの構成案を自動生成できます。

• 小テスト問題の作成

小テスト用の選択式の問題を生成AIに作成してもらうこともできます。さらに解説もつけてもらえます。ただし、正確でない出力もあるため、教員自身が最終チェックすることが重要です。

<研究関連で使う>

• 論文へのフィードバック


論文の草稿を生成AIに入力し、査読者としてのレビューを受けることも可能です。最新のモデルだと鋭いコメントを出してくれることもあり、筆者も実際に利用しています。

• 英文校正

生成AIの英語に関する能力は高く、自身の英文の校正をしてもらうことも可能です。ただし、回りくどい表現が出てきたり、専門的な表現はうまく扱えなったりするため、最終的には人間の確認が必要ですが、クオリティの高い校正をしてくれることが多いです。

<事務で使う>

• 事務作業の効率化


機密情報を扱える環境が確立されている場合、または入力内容に機密情報を含まない場合は、学生やほかの教員への連絡事項、会議の議事録作成、報告書の作成などを生成AIにサポートしてもらうことで、事務処理の負担を軽減できます。

• 多言語対応

留学生向けの資料作成や、海外からの問い合わせ対応などにおける、翻訳で生成AIを活用することができます。生成AIを用いることで国際化に対応した事務処理が簡易に実現できます。

生成AIを利用するうえでの注意点

生成AIは非常に便利なツールですが、その利用にはいくつか注意点があります。これまでの活用例の中でも注意点に触れましたが、改めて生成AIを利用する際の注意点を以下に挙げます。

まずは、出力の信頼性が高くありません。生成AIは、あたかも真実のように見える文章や情報を生成することがありますが、実際には事実と異なる情報を生成することがあります。 生成AIが出力した情報は鵜呑みにせず、必ず信頼できる情報源と照らし合わせて確認することが重要です。

基本的に個人情報・機密情報は入力しないほうがいいでしょう。外部サービスの生成AIに個人情報や機密情報を入力することは、情報漏洩のリスクを高めます。 学内に環境が整っていない限りは、個人情報や機密情報は入力せず、一般的な情報のみを入力することをおすすめします。

著作権侵害に配慮する必要もあります。生成AIが生成した文章や画像が、既存の著作権を侵害している可能性もあります。 生成AIの出力結果をそのまま利用するのではなく、類似する文章や画像がないかを確認する、あくまでも出力は参考程度に利用して自分オリジナルの文章や画像を作成するなど、著作権侵害に十分配慮する必要があります。

ほかにもバイアス、言語格差、データの学習、透明性など多様な課題が山積していますが、大学教員は、生成AIの特性を理解したうえで、教育や研究活動に活用することで、活動の効率化、質の向上が見込めるでしょう。ただし、生成AIはあくまでもツールであり、その出力結果を批判的に吟味し、適切に利用することが重要です。

(注記のない写真:Supatman / PIXTA)