不登校特例校の先駆け「高尾山学園」、登校率約70%・進学率95%超の理由 大人が徹底して寄り添う組織体制を独自に構築

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年々増加している小・中学校の不登校児童生徒数。文部科学省による2021年度の全国調査では過去最多の24万4940人となった。そんな中、対応策の1つとして改めて注目されているのが「不登校特例校」だ。中央教育審議会部会の「次期教育振興基本計画(23~27年度)」の審議経過報告案には、全国に300校の設置を目指すことが明記された。既存の不登校特例校では、これまでどのような成果や課題があったのか。不登校特例校として約20年の実績がある八王子市立高尾山学園で校長を務める、黒沢正明氏に話を聞いた。

不登校の子どもたちが学びやすい「柔軟な教育課程」とは?

現在、111人の小・中学生が学ぶ八王子市立高尾山学園。全国に21校ある不登校特例校の1つである。中3の1限目の国語の授業を見学させてもらうと、生徒がよく通る声で自分の考えを述べているところだった。同校の児童生徒の登校率は、平均約7割。すべての児童生徒が前の学校で不登校を経験しているが、なぜここでは元気に登校して学ぶことができているのか。

不登校特例校は分教室型が多いが、高尾山学園はその中でも珍しい学校型の公立小中一貫校だ。小学部(左、写真:高尾山学園提供)、中学部(右)

同校が誕生したのは、2004年のこと。当時の八王子市長が、不登校児童生徒の多さに危機感を抱いたことがきっかけだった。構造改革特区を活用し、不登校児童生徒に合った教育課程を実現する小中一貫校として新設。その後、05年に学校教育法施行規則の一部が改正されたことを機に、特区の枠組みを抜けて文科省の指定校となり今に至る。

不登校特例校の先駆けといえる同校で、企業経験を経て13年から校長を務める黒沢正明氏はこう話す。

「本校は、不登校の子どもたちが家から出て人と関わり、基礎学力と社会性が獲得できるようにと設立されました。当初目指していた学力は、就職のチャンスが増える『自動車免許が取れる程度』と聞いてますが、現在は学力が高い子も増えています。まずは学校が安心・安全で、人との関わりや体験が楽しいと思えることを大切にしています」

八王子市立高尾山学園校長の黒沢正明氏

受け入れ要件は、「市内在住で八王子市立小・中学校に在籍していること」「病気や経済的な理由を除いて年間30日以上欠席しており、高尾山学園への登校意欲があること」の2つ。大きな特徴は、やはり不登校特例校の枠組みを生かした、柔軟な教育課程だ。黒沢氏は次のように説明する。

「本校では設立時から2割程度の時数軽減を行い、行事を除きおおむね760時間程度の教育課程にしています。1校時目は9時55分開始で、午前は3コマ。午後は2コマで、週に2回は体験講座としています。宿題はなく、5段階の成績をつけるのは受験を控える中3だけ。また、中2からは、個別学習のB(Basic)コースと、一斉授業で学ぶC(Challenge)コースから、自分に合った学び方を選べるようにしています」

授業ごとに子どもたちが教室を移動するスタイル。中3英語のCコース(左上)、中3数学のBコース(右上)、Bコースの単元別教材(左下・右下)

とくに英数国のBコースは単元別のプリントや端末のアプリなどを使って各生徒の習熟度に合わせた学習を行い、Cコースでは教科書に沿って授業を進めている。また、英数国は、1クラスに2〜3人の教員、さらに各クラスに1人以上の指導補助員が付く。

不登校特例校の壁は「人材と予算」、市と連携して体制構築

充実した人員体制は、授業だけではない。「不登校特例校には、社会性と学力、福祉、医療という3つの機能が必要」だと考える黒沢氏は、着任後の翌年、2014年から校舎の中に同市教育委員会の登校支援室を置き、連携して多くの大人が児童生徒に関わり寄り添う体制にしている。

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