マレーシアでは、なぜ「教えない教師」が優秀とされるのか、納得の理由とは? 21世紀型「国際バカロレア教育」が重視する授業

「話す」から「聞く」へ変化する教師の役割
黒板に向かって板書をし「生徒に知識を授ける」――教師のそんなイメージは過去のものになりつつあります。
マレーシアで「4C」――Communication(コミュニケーション)、Critical thinking(クリティカルシンキング)、Collaboration(コラボレーション)、Creativity(創造性)の教育の世界を取材していると、よく「教えない先生がいい先生だ」と言われます。皆さんは、「教師は教えるのが職業ではないか」と思われるかもしれません。しかし生徒の「表現力」が重要視される21世紀型教育では、先生の役割は大きく変わります。先生は黙って話を聞いて、生徒に議論をさせるのです。
例えば、ある小学校の地理の授業では、先生がこんな質問を出していました。
「あなたは、英国はEUにとどまるべきだと思いますか? 賛成か反対か、どちらかの立場に立って、議論してください」
子どもたちは、まず自分の意見を決めるために、インターネットなどで事実を調べ、自分の立場(賛成か反対か)を考えます。こんな宿題もありました。
「世界で最も多くの人を救った歴史上の人物は、誰だと思いますか? 調査して、自分の考えを述べてください」。ほかにも「アパルトヘイトはなぜ終わりましたか。あなたの考えを書きなさい」という問題が出たこともあります。そこには「正しい答え」はありません。子どもたちは自分で調べたことを共有し、ほかの子が調べたことを聞き、議論します。こんな授業が多いのです。ここでの先生の役割は「聞くこと」です。
中には「聞く」だけではなく、講義そのものを禁止し、「教師が話す時間」を制限する学校も出てきました。少数精鋭教育をオンラインで実施している超難関の米国のミネルバ大学では、「講義形式の授業を禁止」しています。
「下から目線」の先生たち
保護者や教師からすると、「教えない先生」には不安もあるでしょう。では、肝心の生徒の側からはどう見えているのでしょうか。例えば、日本でも文部科学省が推進している国際バカロレア(International Baccalaureate、以下、IB)の高校の必修科目にTOK(Theory of Knowledge=知の理論)があります。公式ガイドによると説明はこうです。