マレーシアでは、なぜ「教えない教師」が優秀とされるのか、納得の理由とは? 21世紀型「国際バカロレア教育」が重視する授業
では、そのような教師を訓練する機会がない学校に勤めている教師や、お金がなく学ぶことが難しい教師はどうすればいいのでしょうか。そんな人は、無料の大学を利用することが可能です。
例えば、米国にピープル大学という大学があります。オンラインでほぼ無料で学べる大学で、高校の卒業資格と一定の英語力さえあれば、コースを受講することができます。この大学の教育学のコースでは、受講者の多くが世界中から集まった現役の教師だということです。教員資格は取れませんが、教育の歴史やIBに基づいた授業の進め方などを学ぶことができます。
チアン博士は、「時間とは優先順位の問題」だと言います。
「多くの場合、私たちは週末ずっとネットで動画を見たりして、時間を費やしています。あまり生産的ではありません。役に立たないことで多くの時間が失われます。もちろん時間をうまく管理し、集中する必要がありますが、うまくいけばあなたは成長し、リラックスもできます」
そうはいっても、これを日本で実践するには多くのハードルがあります。まず、日本の先生は、授業以外にも部活動の顧問や校務など、たくさんの職務があり、時間外勤務も多いと聞きます。学ぶ時間の捻出や、今の学校の授業システムをすぐに変えるのは難しいでしょう。
取材したインターナショナルスクールでは、掃除や給食、クラブ活動は教師の仕事の範疇ではないことが多いので、教師にもある程度の余裕があるといえるからです。また、討論するためには、クラスの人数も制限しないと無理ですし、そもそも、IBのような議論する教育スタイルではなく、従来の教育制度のほうが「性に合っている」という生徒がいるのも事実です。
一人ひとりが違うので、全員に同じ教育を与えるのは難しいのです。
当面は、オルタナティブな学校やインターナショナルスクールなど、できるところから変わっていくしかないのかもしれません。また、教育を受ける側が、どんな教育でも選べるという状況をつくることも大切です。
しかしどんな教育であっても、教師が自ら学び続けられる環境をつくること、それだけは喫緊の課題であり、重要なことではないかと感じました。
東京都立青山高校、早稲田大学法学部卒業。『MAC POWER』(アスキー)、『ASAHIパソコン』『アサヒカメラ』(ともに朝日新聞出版)の編集者を経て現在フリーの編集者、文筆家。1990年代半ば、仲良くなったマレーシア人家族との出会いをきっかけに、マレーシアの子育てに興味を持ち、マレーシアに教育移住。東南アジア発の生き方・教育・ビジネス情報を発信中。著書に『子どもが教育を選ぶ時代へ』『日本人は「やめる練習」がたりてない』(ともに集英社)、『マレーシアにきて8年で子どもはどう変わったか』 (サウスイーストプレス)、『いいね! フェイスブック』(朝日新聞出版)ほか
(写真:すべて野本響子氏提供)
執筆:野本響子
東洋経済education × ICT編集部
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