マレーシアでは、なぜ「教えない教師」が優秀とされるのか、納得の理由とは? 21世紀型「国際バカロレア教育」が重視する授業
チアン博士は、こう続けます。
「ですから、私たちの試験では、数学などの問題などを除けば『正解は何ですか?』とは問いません。通常は『あなたはどう思いますか?』と尋ねます。IB教育を受けている子どもたちは、たった一つの正答を出すという訓練をされていないので、自らの意見を言うことをまったく怖がりません」

このオープンマインドという前提があって初めてクラスで議論が成立し、話し合うことができるのです。クラスでは次のような課題を話し合います。
「インドネシアには、収入のすべてがたばこ工場に依存する村があります。彼らはたばこがなくなると餓死します。一方で、人口の 90% が喫煙し、肺がんの発生率が非常に高い別の都市があります。では『喫煙は悪いことかどうか』について議論をしてください 」
この議論でのポイントは、正解を出すことではありません。すべての意見をただ聞いて、ただ吸収することだと言います。
「私たちが教えたいのは、ここに正解はないことです。あなたの考えを教えてください、それだけなのです。そこには、シンプルに私たちの意見があるだけなのです!」
チアン博士は、この教育のためには教師も訓練し、オープンマインドという新しい考え方を取り入れる練習をする必要があると言います。また、自分の意見を持つために重要なもう一つのことは、「教師も学び続ける」ことです。しかし、マレーシアでも学び続けている先生は実は少数派だと言います。
「学べ」と言う教師が「学ばない」現実
チアン博士は、こう続けます。
「ところが悲しいことに、ほとんどの教師は教師になった瞬間に、学ぶことをやめてしまいます。教育システムの最悪の部分です。彼らは大学卒業後に学習をやめる一方で、子どもたちに毎日学習するように求め続けます。非常に偽善的です」
チアン博士はもともと医師でした。医師は、つねに学び続けることを求められます。
「すべての医師は、学び続けなければならないことを知っています。医師は毎日、2つの論文を読まなければ、医療情報を更新できません。しかしインターナショナルスクールに通う教師に、『先週何を学んだか』と尋ねたら、ほとんどの人は、『何も』と言うでしょう。彼らは学校で特別なワークショップが開催されることを待っている。そのような機会がなければ自ら勉強することがないのです」
そこでチアン博士の学校では、すべての教師に学士号、修士号、または PhDプログラムのいずれかを受講することを義務づけました。IB教育を学ぶためのカレッジも用意されており、奨学金制度を使えます。ただし、これは簡単なことではありません。ときには教師が辞めてしまうこともあります。
「私たちは、教師とはその職務に真剣に向き合うべき職業であると信じています。そのため面接では、教育に真剣に取り組んでいる教師を選びます。ほとんどの学校は生徒の教育に重点を置いていますが、私たちは生徒ではなく、“教師を教える”ことに焦点を当てています。なぜなら、教師がよければ生徒を導くことはさほど難しくないからです。しかしその逆で、つねに教え方を現場で改善するのは難しい。それは大きな違いです」と言います。