中高生の4人に1人が「ネット依存」

総務省の調査結果(『令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』)によると、2023年時点でインターネット依存傾向の人の割合は7.4%と報告されています。年代別に見ると10代が最も高く、24.8%と過去最高の数値となっています。実に中高生の4人に1人がネット依存の疑いがあるのです。

下の表は、インターネット依存傾向を測るヤング8項目基準という質問項目です。上記の調査でも用いられています。8項目のうち5つ以上が該当すれば、依存傾向と判定されます。2024年現在、ネット依存やスマホ依存は「病気」として認定されておらず、診断基準は確立されていません。自身の生活習慣を顧みる目安として、回答してみてください。

ヤング8項目基準
榊浩平
榊 浩平(さかき・こうへい)
東北大学応用認知神経科学センター助教
千葉県出身。東北大学理学部卒業。同大学院医学系研究科修了。博士(医学)。人間の「生きる力」を育てる脳科学的な教育法の開発を目指している。脳計測実験や社会調査で得られた知見をもとに、教育現場での講演、教育委員会の顧問、本の執筆などの活動をしている。宮城県仙台市教育委員会「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」委員、宮城県白石市教育委員会「幼保小架け橋プログラム開発会議」委員、千葉県松戸市教育委員会アドバイザーなどを務める。著書には『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)、共著に『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(青春新書インテリジェンス)、『子どもたちに大切なことを脳科学が明かしました』(くもん出版)がある
(写真は本人提供)

ネット依存の代表的な症状として、不安や抑うつ、イライラなど、精神に不調が表れます。また、睡眠不足や生活リズムの乱れを伴い、遅刻や欠席が多くなります。家族や友人との衝突も増え、社会的に孤立してしまうこともあります。

一般的に、依存対象と接し始める時期が早いほど、依存症のリスクは高まります。そのため、お酒やたばこは20歳まで禁止されているわけです。依存性のあるものと上手に付き合うためには、自分をコントロールする自己管理能力が必要です。私たちのおでこの裏側には「前頭前野」という脳の領域があります。前頭前野は、知的な活動をする上で必要な「認知機能」や、社会生活を営むうえで必要ないわゆる「非認知能力」を支えています。前頭前野のはたらきによって、ヒトは感情や行動を理性的に制御することができます。しかし、未成年の前頭前野は発達の途上にあるため、自分をコントロールすることが成人よりも難しいのです。

スマホが学力を「破壊」している

東北大学加齢医学研究所は宮城県仙台市教育委員会と共同で、2010年度より毎年、約7万人の全仙台市立小中学生を対象とした大規模調査(「学習意欲」の科学的研究に関するプロジェクト)を実施しています。調査の結果から、スマホが子どもたちの学力を「破壊」している、そんな恐ろしい現状が浮き彫りになってきました。

「スマホをたくさん使う子は勉強をしないから、あるいは寝不足だから、学力が低いのは当然だろう」私たちも初めはそう考えていました。しかし、勉強と睡眠の影響を考慮した分析をした結果、驚くべき事実が明らかとなったのです。

次のグラフは、平日1日当たりのスマホ等の使用時間が「1時間未満」の子どもたちを対象とした、勉強・睡眠時間と成績の関係を表しています。縦軸が「テストの成績」、横軸が「勉強時間」、そして奥行きが「睡眠時間」の3次元グラフで示しています。標準学力検査の偏差値50以上を灰色、50未満を白色の棒で色分けしています。グラフの右奥側、つまりたくさん勉強をしていてかつ、たくさん寝ている子どもたちほど、成績が高いことが読み取れます。

ここから、スマホ等の使用時間を1時間ずつ延ばしていきます。長時間スマホ等を使っても、勉強や睡眠の時間をしっかり確保していれば問題ないとしたら、グラフの形は変わらないはずです。逆に、スマホ等の使用が学力へ直接的な影響を与えているとしたら、成績上位を示す灰色の棒の数が減っていくはずです。それでは結果を見てみましょう。

スマホ等の使用時間が長くなればなるほど、灰色の棒の数が明らかに減っていく様子が見てとれます。衝撃的なのは「3時間以上」の結果です。灰色の棒が1本も残りませんでした。この結果からわかることは、スマホ等を1日3時間以上使用している子どもたちは、どれだけ勉強を頑張って、きちんと寝ていたとしても、成績が下位に沈んでしまっているということです。

つまり、スマホをたくさん使う子どもたちは勉強をしないから、あるいは寝不足だから成績が低いというわけではなかったのです。この結果から、スマホ等の使用は子どもたちの学力に直接的な悪影響を与えている可能性が高まってきたのです。

スマホの使用で脳の発達が阻害される

東北大学加齢医学研究所では、約5〜18歳の子どもたち223名の脳をMRIで計測し、3年間の脳の発達とインターネット使用習慣との関係を調べました。

アンケート調査により子どもたちのインターネット使用習慣を尋ね、同時に言語能力に関する知能検査を行いました。そして、脳の発達を調べるために、MRIを用いて子どもたちの脳の容積を計測しました。3年後に同じ計測を行った結果、インターネットを頻繁に使っていた子どもたちほど、3年間の言語能力の発達が小さく、幅広い範囲における脳の発達にも悪影響が見られました。

下の画像の黒い部分が、発達に悪影響が見られた脳の領域を表しています。前頭前野をはじめ、記憶や学習に関わる海馬、言葉や感情に関係する領域などが含まれています。どれも私たちが生きるうえで必要となる大切な機能です。特に衝撃を受けたのは、インターネットを「ほぼ毎日使用する」と回答した子どもたちの脳の発達は、ほとんどゼロに近い数値となっていたことです。

つまり、インターネットを毎日使っている子どもたちは、3年間で脳がまったく発達していなかったのです。脳の広範囲で発達が止まってしまっているわけですから、スマホを使った分だけたくさん勉強をすれば悪影響を補って帳消しにできる、とはいかないのです。

自己管理能力を育て、スマホ依存に立ち向かう

スマホが子どもたちの脳や学力へ与える悪影響を防ぐためには、どのような取り組みが考えられるでしょうか。私たちは、子どもの自己管理能力を育てるスマホ依存改善プログラムとして、公立小学校の児童349名を対象に、約6カ月間の取り組みを実施しました。

まずは夏休み明けの全校集会で、スマホとゲームが学力や脳の発達へ与える影響について児童に説明しました。その後、スマホとゲームとの付き合い方について各学級で話し合ってもらいました。次に、各学級の代表者2名を集めた会議を開き、学級会で得られた意見をもとに学校全体のルールを定めてもらいました。児童の話し合いの結果、スマホとゲームは「1日2時間以内」「寝る1時間前までにやめる」「宿題などやるべきことが終わってから使う」という3つのルールが定められました。

年度末にかけて、自分たちで決めたルールをみんなで守って生活してもらい、自己管理能力の育ちを見守りました。取り組みを進めるうえで重要なのは、子どもたちの主体性を尊重することです。親や教師から無理矢理押し付けられたルールではやらされ感が大きく、子どもたちが自分事として捉えられません。教師はできる限り口を挟まず、添え木のような役割に徹することが求められます。

分析の結果、取り組み前後でルールを守れる児童の割合が約10~20ポイント増加していました。

スマホの利用ルールを守れた児童の割合
(画像は筆者作成)

また、インターネット依存傾向の児童の割合も減少していました。児童の感想では、自己管理能力の育ちや、学習面への良い影響を実感している意見が聞かれました。また、同じ立場の人と互いに支え合うピアサポートの要素が取り組みの成果に繋がっていることもうかがえました。

児童の感想

このように、スマホに依存することなく、便利な道具として活用するためには、前頭前野を鍛え、自己管理能力を育てることが大切です。急速に進歩を遂げる科学技術に対して、人間の「心」も共に進歩しなくてはならないのです。

(注記のない写真:YsPhoto/PIXTA)

【引用文献】
榊浩平(著)川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)