同校は公共政策大学院と呼ばれる。法律を教えるロースクール、経営を教えるビジネススクールと同様、ケネディスクールは主に政治や経済、リーダーシップなどを教えている。
校名はハーバード出身でもある第35代米国大統領のジョン・F・ケネディにちなんでつけられた。主に政治家や国際機関の職員、官僚、NGO(非政府組織)の社会活動家などを育てる学校だ。卒業生には国際連合事務総長のパン・ギムン、世界経済フォーラム(ダボス会議)設立者のクラウス・シュワブ、シンガポール首相のリー・シェンロンなどがいる。
私が所属するのはMaster in Public Administration(MPA、公共経営学修士)という課程。出願するには「最低3年ほどの職歴」が求められるが、7年以上の職務経験があればMid-Career MPA(ミッドキャリア向けMPA)という課程に出願できる。通常なら卒業まで2年が必要だが、ミッドキャリア向けのコースは1年で卒業できる。そのため、ハーバードでも人生経験が豊富な人材が多いと言われている。
学生のバックグラウンドは百人百色
どんなバックグラウンドを持った同級生が集まるかを紹介してみたい。
まず職業。同級生たちを見わたすと、「神父」「ベンチャー投資家」「国連職員」「地方公務員」「政治家」「軍人」「社会起業家」「NGO職員」「投資銀行家」「システムエンジニア」「警察官」「会社経営」「アナリスト」「外交官」「弁護士」「大学教授」「研究員」「経営コンサルタント」など。
また出身国も「インドネシア」「スリランカ」「ブラジル」「コスタリカ」「ウガンダ」「ナイジェリア」「レバノン」「イラク」「イタリア」「クロアチア」など。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、南米、中東など各地の国名があがり、「ここは国連なのか」と思うほど。実際に出身国を数えてみると、世界77カ国に上る。
平均年齢38歳×職業×世界77国を組み合わせた214人の同級生たち。ひとりとして同じような境遇、仕事、経験を持った人間などいない。
そんなまったく共通点のない人材をひとつの場所に集めて学ばせると、何が起こるのだろうか。ここに来て気づいたのは「大学での学びは授業中に限ったものではない」ということだ。自分と違った人生経験を同級生らが持っているため、普段のちょっとした会話からでも学びがある。
たとえば労働について。先日、同級生とランチをしているとさまざまな問題が提起された。ニューヨーク出身のファッションモデルの同級生が「ファッション業界は華やかに見えるけど、その裏には劣悪な環境で働かされている途上国の労働者がいる。私たちは服を買う時に彼らの立場を考えているだろうか」と投げかけた。
すると南アジア出身の人権弁護士が「母国では家計を支えるため、衣料工場で無理に働かされている女性が多い。男女間の差別がいまだに根強い問題だ」と返す。自らが見たり仕事でかかわったりした体験などを基に話を進めるため、会話を横で聞いているだけでとても興味深い。