メンバーが違えば、ヨーロッパの移民問題、シリアの内戦、日中関係などありとあらゆるヘビーな話が、コーヒーを飲みながら、ランチを食べながら、帰り道で歩きながら話し合われている。
なぜ記者をやめてハーバードに来たのか
このような環境に今いる私は、なぜハーバードに来たのだろうか。ここに来る前は日本経済新聞で9年、記者をしていた。大学生の時にイスラエル・パレスチナを旅し、現地で見たユダヤ人とアラブ人との争いに衝撃を受けたことが記者になったきっかけだ。
「人はなぜ争うのだろうか。そしてこのむごい争いをどうにか止められないだろうか」。自らの問題意識を世の中に訴えられる仕事を志し、新聞記者になった。ただ、現実は厳しかった。日々起こるニュースへの対応や雑務に追われる日常。忙しさの中に身を置く中で、自らの原点を忘れかけていた。仕事の合間のふとしたきっかけに「改めて仕事の意味や人生の目標を見直したい。一度仕事を離れてみよう」と思った。そう考えて海外留学を検討し、今ハーバードにいる。
実際にそういった自身の悩みや問題意識がハーバードの合格につながった。ケネディスクールに入るには、大学時代の成績、GMATもしくはGREという日本のセンター試験のような米国の大学院向けの統一試験、エッセイ(志望動機書)、推薦状などが必要だ。
日本の入試に慣れ親しんだ考えなら「試験の点数がいちばん大切なのでは?」と思うだろう。だがハーバードの入試では、エッセイが最も重要だ。
ケネディスクールでは去年、エッセイに次のような問題が出された。
制限の文字数は英語で750語。日本語では約1500語だ。たった1500語でこれまでの人生を語り、現在を位置づけ、ハーバードでの学びを将来につなげる。スタンフォード大学の卒業式で人生を語ったスティーブ・ジョブズ的にいうと、過去と今という点を結び、線にする作業が必要となる。
その線の中で「なぜ今、ハーバードでの学びが人生に必要なのか」を考え抜き、線を未来につなげる方法を模索し、エッセイに素直にぶつける。そのとき、必ずしも順調ではなかったこれまでの仕事や人生経験が、むしろ生きてくる。そして、未来につながる道がかすかながら見えてきたりもするのだ。
そんなケネディスクールには、校風を表したこんなモットーがある。
「Ask what you can do」(あなたに何ができるかを問いなさい)
もともとは、ケネディ大統領が就任演説で語ったスピーチのなかのひと言だ。元記者で今ハーバードで学ぶ私にできるのは、ハーバードでの学びや体験について書くこと。そして少しでも多くの人にハーバードでの貴重な学びを還元することだ。この連載ではハーバード生たちの葛藤や夢、ハーバードが教える世界を変えるための教育方法などを紹介していく。
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