「静かに暮らしたい」地元が猛反対も…。奈良《築130年の醤油蔵》がリノベ宿に生まれ変わるまで。”脱サラ18代目”が甦らせた祖父の味と場

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マルト醤油の復興で困難を極めたのが醤油づくりだった。製法そのものは地元の醤油組合などを通じて知ることはできても、先代がどのように醤油をつくっていたのかまではわからなかった。いくら古文書を読み解いても記されておらず、醤油づくりの技術はすべて先代からの口伝によって継承されてきたのである。

「参考になったのが、『子供の頃に醤油蔵でかくれんぼや鬼ごっこをして遊んだ』というご近所さんの話でした。80代、90代の方を訪ね歩いて醤油蔵の様子について話を聞きました。それらをパズルのように繋ぎ合わせて今の形にしました。醤油の原料となる大豆や小麦も大和川沿いで栽培している農家さんに頼んで作ってもらいました」(木村さん)

甘い香りと風味が立つ醤油

また、先代は醤油蔵を廃業後、別の用途に使わずそのままにしていた。そのおかげで70年経っても蔵の中に蔵付き酵母菌が生息していることがわかった。木村さんは一般的な醸造方法を基に小さな樽で醤油を仕込んだ。出来上がった醤油が正しいのか、それとも間違っているのか判断もできなかった。ただ、近所の人から聞いていた「甘い香りがして、すごく風味が立っている醤油」とは何となく違うと思っていた。

「そんな中でまたご近所さんと話していたら、『子供の頃、夏休みに蔵の中で涼んでいたときに樽をかき混ぜるところをよく見ていた』と言うんです。しかも、よほど興味深く観察していたのか、かき混ぜる頻度もしっかりと憶えていました。その通りにやってみたら、前回とはまったく別物の醤油が完成しました」(木村さん)

マルト醤油
マルト醤油の醤油蔵。宿泊客は醤油絞りも体験できる(筆者撮影)

「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」のオープンは、2020年8月。醤油を店頭やネットで販売したのは2022年3月で、地元の新聞でも採り上げられた。その半年後、町内に住む90代の人が新聞の記事を見たと言って訪ねてきた。話を聞いてみると、マルト醤油を使っていたことがあり味見をさせてほしいとのことだった。木村さんにとっては願ってもないことだったので、その申し出に喜んで応じた。

「スプーンで少量の醤油を舐めてもらいました。すると『これ、これ! この味と香りはマルト醤油の味だ!』と、おっしゃいました。それをきっかけに、これがマルト醤油の味だと自信を持つことができました」(木村さん)

現在、関西エリアは大阪・関西万博で盛り上がっているが、日本のはじまりの地、奈良・田原本を訪ねて、自身が大和の風景の一部になってみてはいかがだろうか。

永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー

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ながや まさき / Masaki Nagaya

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。

地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに記事と写真を提供。

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