「静かに暮らしたい」地元が猛反対も…。奈良《築130年の醤油蔵》がリノベ宿に生まれ変わるまで。”脱サラ18代目”が甦らせた祖父の味と場
大学卒業後、大阪のアパレル会社で働いていた木村さんは、2001年に先代が亡くなった後、蔵を片付けていると、1000点を超える古文書が見つかった。もちろん、読むことはできなかったが、それまで意識したことがなかった家のルーツについて考えるようになった。
ある日、蔵の中にあった箪笥の引き出しを開けると、マルト醤油のマークと屋号が描かれた前掛けが見つかった。きれいに畳んであり、先代がとても大切にしていたことがわかった。同時に醤油づくりに捧げた人生が伝わってきた。
「祖父の口癖は『人の喜ぶことをしなさい』と『人に感謝しなさい』、それと『地域に貢献しなさい』でした。蔵を片付けているうちに、この町の景観をこの先も守り続けたいという焦りと危機感を持ち、醤油で地域に貢献したいと思うようになりました」(木村さん)

醤油蔵を地域の人々とともに復興させたい
とはいえ、廃業から70年以上が経っていることもあって、醤油蔵を復興させるのは雲を掴むような話であり、どこから手を付けてよいのかさえもわからなかった。先代の死去から10年が経ち、新聞の片隅に載っていた地元の商工会が主催する観光ビジネス講座へ3年間通い、「本物を大切に伝える」ことの重要性を学んだ。
「私にとっての本物は、やはり醤油。昔ながらの製法で仕込んだ醤油を味わってもらい、宿泊施設で醸造文化に触れてもらう。“泊まれる醤油蔵”をコンセプトにしました」(木村さん)
2013年には古文書の読み方講座にも通った。70代、80代の受講者たちが協力して古文書を解読してくれた。そこには米が不作の時期に地域の人々とお互いに助け合ったことや、蔵人たちを家族のように大切にしていた様子がリアルに書かれていて、先代の口癖は、代々受け継がれてきたものだと実感した。

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