マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙(The Iron Lady)--つらい経済改革と強い心と幸せ《宿輪純一のシネマ経済学》
79年、父の教えである質素倹約を掲げる保守党のサッチャー(メリル・ストリープ)は財政赤字を解決し、アルゼンチンとのフォークランド紛争に勝利し、国民から絶大なる支持を得ていた。しかし、実際は、彼女は孤独であった。
サッチャー政権によって推し進められた政策は「サッチャリズム」と呼ばれる。「小さな政府」を目指し、規制緩和や政府系企業の民営化などを推し進めた。賛否はあるが、これにより、英国は財政赤字を解消し、景気回復に向かうことになった点は、評価してよいと思う。それは、政治家としてのサッチャーの強さが引っ張ったといえよう。ここが現代の政治家に欠けている点だと思う。
以前筆者は、東大大学院で教鞭を執っていたが、教科書として『実学入門 社長になる人のための経済学-経営環境、リスク、戦略の先を読む』(日本経済新聞社)を書いた。そこでも「批判して、何もしないのは誰でもできる。新しいことをすると非難されることが多いが、一番いけないのは何も改革しないことである。それこそ、最もリスクである」と述べた。筆者は、国も企業も個人も一緒であると考える。
この映画で不満な点が2つある。われわれは実は弱い。しかし、サッチャーは強かった。その強さを本当に支えたものは何だったのかということを知りたい。また、あれだけ英国の経済改革を進め、たそがれる英国を救った人なので、もっと賞賛してもよいのではと思った。特に、今の日本は明らかにたそがれてきており、日本の政治と経済に対する期待が下がってきているからである。
しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・映画評論家・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングス他に勤務。非常勤講師として、東京大学大学院(3年)、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学(5年)等で教鞭。財務省・経産省・外務省等研究会委員を歴任。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『通貨経済学入門』・『アジア金融システムの経済学』(以上、日本経済新聞出版社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA、facebook:junichishukuwa ※本稿の内容はすべて筆者個人の見解に基づくもので、所属する組織のものではありません。
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