「ママ、猿よりかわいい」は自分で気づく力の芽!小島慶子が教える、子どもの言葉を宝物に変える親の視点

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最近、書を習い始めました。1600年以上前に書かれた人の字をなぞると、その人の手がどう動いたのか、力加減や、書いているときの情動まで疑似体験できるような気持ちになれます。これは凄まじいことです。

筆記具を持って、紙に書くというのは非常に複雑な作業です。ある形を作り、意味をなすように並べなければならない。読めるように書かないと意味が通じません。筆跡からは人柄も窺えます。文字は身体の痕跡なのです。

書を通じて、手を動かすことの喜びと不思議を知りました。ですから本書に書かれている「鉛筆を持って文字を書く」という行為が重要だという話は、とても納得がいきます。

野蛮なデジタル原始時代を生きる私たち

現代は「デジタル原始時代」。1000年後の人から見たら、「21世紀って、インターネットで罵詈雑言やデマが飛び交って、人が死ぬこともあったんだって。野蛮だったんだね!」と確実に言われるはずです。

「デジタル技術=洗練された未来」というのは幻想で、私たちが生きる現在のデジタル社会は、最も野蛮で原始的な段階です。数百万年前のご先祖たちは、石器で人を殴ることも、獲物を捌いて仲間と分かち合うこともできると気づきました。

それはデジタル技術も同じです。殴るのかシェアするのか、どちらに使うかが、ヒトを人間たらしめるのでしょう。

どれほどAIを使いこなそうと、自分には思うようにならない生身の肉体があり、時間も能力も限定されています。仮想現実で見たいものを見ることができても、身体を通じてしか現実世界とは出会えません。骨と肉に閉じ込められた短い一生を、人間であり続けるにはどうしたらいいのか。この原点に立ち返ることが今極めて大事だと私は思っています。

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金と権力とテクノロジーさえあれば世界を意のままにできると信じる者たちは、自分が思うようにならない生身の存在であることを忘れているのでしょう。愚かなことです。

子どもの教育においても、もちろん最先端のデジタル技術を学ぶことも大切ですが、体を使って文字を書く、実際にその場所に行ってみる、自分の頭を使って考えることがますます重要になるでしょう。思考言語の貧困は深刻な問題です。

シン読解力が注目されるのは、ものを考えるのに使う言語にはいろいろな種類があるからです。その一つが数学語であり、社会科語であり、そして身体を通じて得られる言葉でもあります。

すでに出ている答えを覚えて組み合わせるのは、ヒトよりもAIの方が得意です。世界に一つきりの自分の脳みそに血流を巡らせ、神経回路をつなげる努力をして、ものを考えるという身体の働きを大事にしたいですね。

(構成:泉美木蘭)

小島 慶子 エッセイスト、メディアパーソナリティ

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こじま けいこ / Keiko Kojima

1972年、オーストラリア生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員。学習院大学卒業後、TBSに入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演。2010年に独立後は、各メディア出演、講演、執筆など幅広く活動。2014~23年、オーストラリアに教育移住。自身は日本で働きながら、夫と二人の息子が暮らすオーストラリアとを行き来する生活を送る。2017~25年、東京大学大学院情報学環客員研究員。『解縛』(新潮文庫)、『おっさん社会が生きづらい』(対談集、PHP新書)など著書、連載多数。公式サイト:https://keiko-kojima.com/

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