韓国現地取材で見えてきた!対馬の盗難仏像"返還"が問いかける「文化財をめぐる常識」の非常識
2011年、日本は宮内庁にあった「朝鮮王室儀軌」(朝鮮時代の王室の主要行事について絵図などで詳細に記した記録物)を韓国に引き渡した。この返還に尽力した「文化財を元の場所に戻す運動」の慧門代表は、当初から観世音菩薩坐像は観音寺に返すべきだと主張していた1人だ。
「今回のような観音寺の観世音菩薩坐像の場合は窃盗事件ですから、戻すのは当然のことでした。私が日本やアメリカへ返還を求めている文化遺産は、文化民族主義という立場というよりは、国家が不法・不当に介入して他国に持ち込まれたことが明らかな韓国の文化遺産が対象です。どういう経緯で渡ったか定かではない、観世音菩薩坐像などは対象にはなりえません」
日本と韓国の間では、1965年に日韓基本条約が結ばれた際、文化財および文化協力に関する協定も結ばれた。このとき、日本の植民地時代に朝鮮半島から不法に日本に持ち込まれ、韓国から返還を求められた韓国の文化遺産は3200点余りとされ、これまで1300点ほどが韓国へ引き渡されている。
朝鮮半島由来の文化遺産は日本に10万点ほどあるといわれる(国外所在の文化遺産財団による)。世界でも日本にある割合は43%を占め、圧倒的に多い。韓国では、国家遺産庁を設立し、世界に散在している自国の文化遺産への回収に力を注いでいる。
変わりつつある国際的潮流
2002年には、世界の名だたる博物館・美術館が自らを「普遍的」として、所蔵している文化財への返還要求に対し、普遍的にあらゆる人々へ文化財を伝える義務があるとして、返還に反対する宣言を出した。しかし、国際的な流れは変わりつつある。
2017年には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領がかつてフランスの植民地だったアフリカ諸国の文化遺産の取得経緯を調査した後、返還すべきとして法改正を行った。また最近では、アメリカのスミソニアン博物館が入手経緯に問題があると判断された収蔵品は返還するとして、その経緯の再調査を始めている。
こうした中で、日本はどんな立場を取るべきか――。今一度、考えるときが来ているのではないだろうか。
観音寺の観世音菩薩坐像は、5月16日から6月15日まで対馬博物館で帰還を祝う特別展示が行われる。韓国の仏教徒の知人は、観世音菩薩坐像を観て心が震えたと話していた。機会があれば、ぜひ足を運んでみてほしい。
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