“芸能界の壁”を越えて……のん、民放ドラマ「キャスター」11年ぶり復帰が意味すること

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2022年公開の『さかなのこ』では、性別を超越した主人公・ミー坊を演じた。実在の人物・さかなクンをモデルにした同作は、幼少期から魚に魅了された主人公が、周囲の理解を得られずとも自分の好きなものに向かって前向きに生きる物語。のんは、性別や常識の枠にとらわれない演技で、「好き」を貫くことの美しさと難しさを体現した。

のんの活動は俳優業にとどまらない。映像監督、アートブックの刊行、ナレーション、音楽ライブなど、アーティストとしても表現の幅を広げていった。2022年の映画『Ribbon』では、監督・脚本・主演をすべて自ら担い、美大生の内面とコロナ禍の閉塞感を重ね合わせた。そこには、制約の中でなお創作を続けようとする彼女自身の意識が色濃く投影されていた。

築いてきた表現力の集大成

そうした歩みの果てに、「キャスター」でついに民放ドラマ復帰を果たした。彼女が演じたのは、iL細胞という新たな万能細胞を発見するも、不正疑惑に晒される研究者・篠宮楓。モデルは明言されていないが、小保方晴子氏を彷彿とさせるこの役柄を、のんは抑制された演技で説得力ある人物像に仕上げた。

キャスター のん
(画像:「キャスター」公式サイトより)

騒がず、感情をむやみに表に出さず、それでも観る者に強い緊張と内面の葛藤を感じさせる表現は、これまでの彼女が築いてきた表現力の集大成でもあった。

のんは今、主役であろうが脇役であろうが、確かな存在感を作品に残すことのできる俳優になった。どんな状況でも表現することをやめなかった者だけが持つ「表現力の高さ」が彼女の武器である。11年ぶりの地上波ドラマ復帰は、業界の構造的な変化だけで実現したわけではない。彼女自身の飽くなき表現への希求がそれを引き寄せたのだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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