今回の関税引き上げも、自由貿易という世界に慣れてしまった経済学者から見れば、悪手そのものである。NATOを捨て、ロシアに接近することは、200年にわたる西欧の政策を否定することだ。しかも、悪手どころか、2世紀以上続く欧米支配を破壊することにもなりかねない。
混乱を招くことで、アメリカにおけるエスタブリッシュされた保守派を一網打尽にするつもりなのか。それとも、21世紀の新しい政治体制を創出することが目的なのか。やることが大きすぎて皆目見当がつかないというのが本当のところであろう。
西欧的価値を崩すトランプの脱構築
ポストモダンが流行していた時代に「脱構築」という言葉が流行した。言語はフランス語のDéconstructionという造語だったのだが、元はDestructionとConstructionという言葉を切り貼りしたものであった。意味は「一度壊して作り直す」ということだが、フランスの哲学者デリダの言葉であった。
なるほど、ポストモダンの功績とは、普遍的だと思われていたものをことごとく壊し、思いも寄らぬ視点を指し示したことにある。この脱構築から生まれたものが、オリエンタリズム批判やカルチュラル・スタディーズ、ポスト・コロニアリズムなどの研究であった。
地軸が少し動いただけで地球は崩壊の危機に瀕する。トランプがこの地軸を揺さぶっているとすれば、問題は複雑だ。
現在の社会を形成している価値基準は、西欧の啓蒙主義の時代に生まれたものである。民主主義や自由、そして社会主義や共産主義といった思想でさえもすべて、その時代の延長線上にある。
そうした西欧社会の発展の中で、反面教師としていつも批判され、ある意味西欧社会のアイデンティティ形成に貢献したのが、ロシアというアジアの存在だった。西欧で生まれた新しい思想を否定する非西欧的なものがすべてロシアに押しつけられ、ロシアは西欧社会と正反対の反面教師になっていった。
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