多くの研究報告で判明「認知症は女性に多い」という"衝撃"「男性より寿命が長いから」だけではない、リスクを高める要因とは?【医師が解説】

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近年では、就業率が上がり社会進出する女性が増えていますが、依然として管理職や専門職の多くは男性が占めており、ジェンダーによる知的機会の格差は根強く残っています。

経済協力開発機構(OECD)の報告によると、2023年で日本の女性管理職の割合は約15%にとどまり、OECD加盟国の平均(約34%)を大きく下回っています(29カ国中27位)。

さらに注目されているのが、社会的不平等(教育・雇用・収入・政治参加の差など)による長期的な健康への影響です。

アメリカで行われた大規模調査では、1900年から2020年にかけて各州の社会的不平等の強さを評価し、高齢期の記憶機能との関連が分析されています。

その結果、社会的不平等が強い州で生まれ育った女性は、そうでない州の女性に比べて、65歳以降の記憶力の低下が早く進んでいることが明らかになりました。日本でも都道府県別ジェンダーギャップ指数が発表され、地域格差が大きいことがわかっていますから、おそらく似たような結果が出ることは想像に難くありません。

このような社会的不平等は、慢性的なストレスといった形で、脳の健康に長期的な悪影響を及ぼすおそれがあります。性差別に起因するストレスが慢性炎症を引き起こし、脳の神経細胞の変性を進める可能性があるという研究報告もあります。

女性のための認知症対策を

このように、アルツハイマー病において女性が高い発症リスクを持っていることは、生物学的要因と、社会的要因の両方が複雑に関係しています。今後の課題としては、女性を対象とした認知症対策の拡充や、性差に配慮した医療・予防政策の実施が求められています。

2024年1月には「認知症基本法(正式名称:共生社会の実現を推進するための認知症基本法)」が施行されましたが、筆者の知る限り、日本では女性を対象とした認知症対策が不十分です。

教育や雇用、介護支援制度など、根本的な女性の社会的基盤を広く強化することで、長期的に認知症の予防にもつながる可能性があります。

私たち1人ひとりの理解と行動が、日本社会における女性の健康と尊厳を守る未来につながるのです。

谷本 哲也 内科医

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たにもと てつや / Tetsuya Tanimoto

1972年、石川県生まれ。鳥取県育ち。1997年、九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック理事長・社会福祉法人尚徳福祉会理事・NPO法人医療ガバナンス研究所研究員。診療業務のほか、『ニューイングランド・ジャーナル(NEJM)』や『ランセット』、『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』などでの発表にも取り組む。

 

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