多くの研究報告で判明「認知症は女性に多い」という"衝撃"「男性より寿命が長いから」だけではない、リスクを高める要因とは?【医師が解説】
●エストロゲンの減少と脳の関係
女性は閉経を迎えると、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が急激に減少します。エストロゲンは生殖機能だけでなく、脳の健康にも重要な役割を果たしています。
具体的には、脳の神経細胞がブドウ糖を取り込むのを助け、脳の主要なエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の産生をサポートする働きがあります。
脳は体の中で最もエネルギーを消費する臓器であり、全体のエネルギー消費の約20%を占めています。なかでも、記憶や判断などを担う大脳皮質や海馬はブドウ糖に依存しているため、エネルギー供給の障害は認知機能の低下につながりやすいのです。
エストロゲンが急激に減少すると、脳はエネルギー不足に陥りやすくなります。そして、それを補うために白質(脂質を多く含む脳の構造)を代替エネルギー源として使い始めることが、研究で示されています。
しかも、白質の成分であるミエリン(神経を包む脂質の鞘)は、燃料として利用されると弱くなり、神経伝達の効率が落ちるとされています。これにより、脳の構造と機能が損なわれ、アルツハイマー病のリスクが高まる可能性があるのです。
実際、40~65歳の健康な女性は、同年代の男性に比べて脳内のブドウ糖をエネルギーに変える能力が約2割低く、白質の体積が約1割少ないという研究結果が報告されています。
女性にとって閉経期が脳の変化にとって極めて重要な時期。言い換えると、アルツハイマー病は高齢期ではなく、中年期にすでに始まっている病気であり、症状が表れるのが老年期、ということなのです。
リスクを高めるメタボと遺伝的要因
閉経後の女性のホルモンバランスの変化は、間接的にも認知症に影響を与えるようです。
●更年期以降のメタボや動脈硬化
更年期を過ぎると高血圧や高血糖、中性脂肪の増加などのメタボリックシンドローム、いわゆる「メタボ」のリスクも高くなります。メタボは動脈硬化を引き起こし、脳血管に影響を与えるだけでなく、アルツハイマー病の発症にも密接に関係しています。
●男性より遺伝子変異の影響が強く出やすい
次に遺伝的要因についてですが、アルツハイマー病の関係ではアポリポタンパクE(APOE)遺伝子が知られています。
特に注目されているのが「APOE-e4」という遺伝子変異で、その影響は男性より女性のほうが強く出る傾向があるという報告もあります(ただし、日本人ではこの遺伝子型は比較的少ないとされています)。
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