10種類の優れた材料が人類の運命を変えた 「文明」の土台を知るために必要なこと
鋼鉄、紙、コンクリート、チョコレート、泡、プラスチック、ガラス、グラファイト、磁器、インプラント材料と古くから存在する材料から近年現れた新たな材料まで取り込んで解説されていく本書を一通り読むと、自分が暮らしている「文明」の土台がこれまでよりもっと確かに感じられ、思っていたより奥深い世界に暮らしていることに気がつくことだろう。
たとえばわれわれが普段身近に使っている紙。紙と一言でいってもその使われ方は多様で、ノートとして使われることもあれば紙幣、写真、レシート、封筒、トイレットペーパーとその硬さも厚さも異なれば、折りたたむことが前提である包装紙と、折りたたまれないことが前提の切符のように相反する要素を同時に満足させる。
用途を考えると、それがすべて同じ材質からできているとは思えないが、それが可能なのも、紙の材料であるセルロース繊維の性質のおかげだ。折ることが簡単にできるとともに、簡単にばらばらにならない強さがあり、小さな起点を元にきれいに引き裂くことも可能で、さらには厚みが増すにつれどんどん固くなり曲がらなくなる幾つもの特性を持っている。
材質からみていくと数々の「当たり前に目にして、不思議にも思わない状況」の理由がわかるようになる。たとえば安くて低級の機械パルプでできている紙の場合、そこにはリグニンというセルロース繊維をまとめる有機接着剤が残っている。リグニンは光が当たると酸素と反応して発色団が発生し、その濃度が高まっていくと紙が黄ばむ。
紙の劣化が進めば、揮発性有機分子が発生しこれは古びた本のにおいとなって漂ってくる。古本屋や図書館独特の匂いは化学的な崩壊が起こっている腐朽の匂いなのだ。
コンクリートも現代文明を支えている
あらゆる場面で紙が必要不可欠なのはいうまでもないが、コンクリートも違った意味で現代文明にとって、なくてはならないものだ。れんがで構造物をつくることはできるが、コンクリートの効率性には遠く及ばない。基礎だろうが柱だろうが床だろうがなんだって「流し込んで、打ち込んで作ればいい」「型枠」をつくれる構造物なら圧倒的速度と安さでもって建てることができる。
コンクリートを発明したローマ人はその先行者利益をしっかりと享受し、帝国のインフラ構築に活かした。水の中だろうが固まるので、水道や橋が建設でき、コンクリートの原材料をより遠くまで運ぶことができるようになった。首都ローマにはコンクリート時代を象徴とするパンテオンドームが建てられ、とっくにローマ帝国が崩壊して2000年以上の時が経つにも関わらず、いまだに世界最大の無筋コンクリートドームとして存在している。
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