10種類の優れた材料が人類の運命を変えた

「文明」の土台を知るために必要なこと

ローマ人は確かにすばらしいドームをつくったが、無筋のコンクリートがひびに弱く全体の崩壊をまねく(引き裂こうとする力に流動的に対応できないため)問題を解決できなかった。ようやく19世紀に至って、人類は鋼鉄がコンクリート内部のケイ酸カルシウムフィブリルと結合することを発見する。安くて早い(うまくはない)鉄筋コンクリートの誕生である。

“トン当たり一〇〇ポンドというコンクリートは、世界で断トツに安い建材である。そのうえ機械化向きで、さらなるコスト削減が可能だ。人手を一人とコンクリートミキサーを手配できれば、家の基礎、壁、床、屋根をものの数週間でつくれる。建物のどの部分も同じ構造物の一部なので、どのような気候下でも優に一〇〇年はもつ。基礎は家を浸水から守るとともに、虫やカビの攻撃を寄せ付けない。”

 

材料の進出はわれわれの外側だけではなく内側にも及んでいる。それはたとえばインプラント技術だ。人体は内部に挿入された材料に関して、大抵の場合拒絶反応を起こすが、チタンは受け入れられる。靭帯の損傷など、自力での再生が困難な場合こうした素材は重宝される。

人工股間関節など現代でも当たり前に使用されている驚きのインプラント材料、技術は多いが、「これから」という意味であれば楽しみなのは3Dプリンタだ。デジタル情報からまるで印刷をするように物体をつくり出す製造技術を使って、患者自身の幹細胞からつくられた気管の移植が、2011年にはすでに行われている

まだ複雑な機構を持つ肝臓や腎臓、心臓といった各種臓器を育てることはできないが、これが可能となれば他者の臓器を移植しなければ命に関わる病気がより安価で、お手軽に治療できるようになる。今後10年、20年と時間を重ねていくうちに、各種器官を取り替えつつ生きることができるようになれば、死を克服するものではないにしても、90歳を超えてもサッカーを楽しむことができるような「生の充実」をはかるものとなるだろう。

材料科学とは何か

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本書では今後材料科学の分野で起こりえる21世紀の課題として、「さまざまなスケールで構造を構築し、新素材を設計できるようになった」先に『あらゆるスケールで設計された構造を結びつけて人間サイズの巨視的な物にすること』を挙げている。

イメージしづらいかもしれないが、たとえばマクロスケールのタッチスクリーンとナノスケールの電子部品を組み合わせたスマートフォンであるとか、炭酸カルシウムの一形態である方解石を排泄するバクテリアを内蔵した自己治癒コンクリートのように「まるで生きた生物のように機能する動的な材料」の可能性さえ開けている。そうなったら、「生きていないもの」がもたらす多様性はこれまでよりずっと広く、豊かになるだろう。

身の回りに存在する数々の材料、その成立過程と内部構造への理解はそのままわれわれのニーズや欲求の複雑な表現への理解と、これまで当たり前に見てきた景色を一変させる視点に繋がっている。本書は自分たちが立っている「足場」をより確かなものと感じさせる一冊だ。

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