しかし、卓上に置かれた無料サービスの「いかの塩辛」(以下、塩辛)でもよく知られている。からやま=塩辛というイメージを持つ人も多く、SNSでは「塩辛無料って、からやま神じゃね?」「塩辛目当てに通っている」というコメントも散見される。
「原価はかかりますが、やめられないサービスです」と山田さんはにんまり笑う。
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なぜなら塩辛は、「付加価値的に絶対喜ばれる」と山田さんが導入を決めたサービスだからだ。「普通はお金を出して食べるものが、無料」というお得感を狙ったという。そして、その裏には、エバーアクションの親会社アークランドサービスホールディングスの主軸であるとんかつ専門店かつやに負けないブランドにしたい、という意気込みがあった。第2の柱となるチェーンを目指したのだ。
からやまで提供される塩辛は、少し甘めでクセのない味わいだ。ごはんに乗っけるのはもちろんだが、ビールのつまみにしたり、からあげに乗せて味変する人もいると山田さん。
最初は何十種類も試食して選んだ既製品を外部から購入していたが、今はオリジナルを委託業者に製造してもらっている。
また、いかの塩辛の隣には、同じく無料サービスの「割り干し大根」の壺がある。こちらは、かつやでも提供しているものだ。さっぱりとした甘さとコリコリ触感が魅力で、箸休めにぴったりだ。
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もうひとつの名脇役、いや、「からあげの絶対的なパートナー」として、白飯の存在も見逃せない。白飯には、季節によって異なる国産米を使用。「ちょうどいい」炊き上がりにするために、古米、新米、品種ごとに水分量を調節している。そのノウハウはかつやで研究、習得されたものだ。
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さらに、つけダレも味変に欠かせない。からやまには「極ダレ」と「甘辛ダレ」、2種類のつけダレがある。いずれも縁から引き継いだものだ。極ダレがゴマニンニク風味、甘辛ダレが甘めの醤油風味で、それぞれにからあげの旨味を引き立ててくれる。
提供時は、「3連取り皿」の左に極ダレ、中央に甘辛ダレ、右側は空きスペースというスタイルで。右側には塩辛や割り干し大根を乗せたりして、気ままに味変を楽しめる。
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2.お値打ち価格でボリュームいっぱい、を幅広く
価格とボリュームも、リピートしたくなる理由だ。からやまのコンセプトは、「お値打ち価格で、ボリュームいっぱい、お腹いっぱい!」。それを象徴するのが、メインメニューであるからやま定食である。
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約5cmのカリッともも3個入りで、みそ汁、ごはん、キャベツが付いて682円(税込み、以下すべて同じ)に抑えられている。100円割引券を活用すると、582円に。率にすると、14.7%もの割引だ。
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「ぜひ食べてもらいたいメイン商品ですから、ほかのメニューの価格を調整して、お値打ち感を出せるよう工夫しています」(山田さん)
とはいえ、開業から10年の間には世の値上げの波に逆らえず、何度か価格改定も行われてきた。そのなかでもからやま定食は、なるべく据え置きをしてきたそうだ。
油淋鶏やチキン南蛮など、バラエティ豊かな定食を用意しているのも、「うちのからあげをこんな形でも食べられますよ」という提案プラス、「1店でいろいろ食べられる」付加価値となっている。しかも、2種類の大盛りメニュー以外は、すべて税抜き1000円以下。大盛りメニューも、通常869円の「しょうが焼き定食」が豚肉1.5倍で1045円、カリッともも20個入りの「デカ盛り定食」が2409円と、かなりお値打ちな印象だ。
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加えて飽きられないよう、毎月1回フェア商品も提供している。「過去に登場した商品とかぶらない提案を」と、商品部が頭を悩ませながら、新しいからあげの味わい方をひねり出しているそうだ。
グランドメニューもじわじわ増え続けており、オープン当初は9品目に絞っていたが、今は定食14種、丼3種、からあげの単品7種など、20種類以上のラインナップが用意されている。
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3.パフォーマンス感のある設計で楽しさを演出
店舗設計にも秘密がある。からやまの店内は、約半分の面積を占めるオープンキッチンが中央に据えられ、周囲をカウンター席が囲んでいる。その奥の窓側にテーブル席、というつくりだ。キッチンは180度どこからでも、働いているスタッフの姿が丸見えである。
からやまではこのキッチンを「ライブキッチン」と呼んでいる。スタッフが働く場所を「ステージ」に見立てているのだ。「お客様に、仕込みや揚げているところを見て楽しんでもらいたい」というのがその理由。そういった話はイタリアンやフレンチの店ではよく聞くが、からやまのような飲食チェーンでは珍しいのではないだろうか。
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しかし、たしかに尼崎下坂部店に訪れた際、筆者の小学生の息子も揚げ鍋を見て、「あれが僕のからあげかも」と目を輝かせていた。「そうなっていただけたら狙い通りです」と山田さんは笑みを浮かべる。一方で、カウンター席が多く確保されるなど、「お一人様」の居心地の良さも考えられている。
なぜお一人様にもやさしい店なのかというと、そもそもブランド創成期、からやまの顧客想定が「30~50代の男性」だったからだ。ベンチマークするからあげ専門店がほかになく、かつやのお客様想定でブランドを作り込んだのだ。
しかし、オープンしてみると男性だけでなく、女性、子ども、家族連れと、幅広い層に支持された。それでも、「この形が認められたのだから」と、女性や子ども向けにブランドを調整することはなかった。からあげの味と同じく、ぶれなかったのだ。テイクアウトも好調で、売上は現在イートインの売上に対して4割を占めている。
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名脇役、お値打ち感、ライブキッチン。これら3つの付加価値と、手間暇を惜しまない仕込みで実現するおいしさで、からあげブーム終焉後も客足が途絶えないからやま。
これらの良さは、なじみ客の多い昔ながらの「定食屋」で、かつて味わえたものに近いのではないだろうか。それをチェーンで体現できている店が珍しく、好調の理由につながっているのではと感じた。
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2024年12月で10周年を迎えたが、次の10年の目標は、国内外で計300店舗の達成だ。
「からあげは全世界で共通するメニューです。日本発祥のからあげとして、からやまの名を縦横無尽に轟かせたいですね」
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