トランプ大統領は「地球上のどの国よりも石油とガスを手に入れることになる。そしてそれを使う。われわれは価格を引き下げ、戦略埋蔵量を再び最大まで埋め尽くし、アメリカのエネルギーを世界中に輸出する」と主張し、「足元にある液体の金(liquid gold under our feet)」を使って豊かになると宣言している。
その上で「掘って掘って掘りまくれ、ベイビー(We will drill, baby, drill)」と強調し、化石燃料との決別がうたわれてきた近年の潮流から真っ向対立する方針を明示している。
こうしたエネルギー政策は第2次トランプ政権において唯一、ディスインフレ色を帯びた論点でもあり、その注目度は非常に高い。
演説中、政策の優先順位を明示したわけではないが、仮に優劣があるとすれば、おそらく重要なものから言及することは想像に難くない。この点、移民とエネルギーには緊急事態宣言が付され、関税については抽象的な情報発信にとどまったというのが演説の客観的評価となる。
終わりが見えない戦争、戦闘停止でも高止まりする原油
演説の最後に言及されたのは安全保障だった。
ここでは「(第1期政権発足時の)2017年と同様、世界がこれまでに見たことのない最強の軍隊を再び構築する」と述べられたが、事前報道にもあった通り、当初「就任後24時間以内の停戦」と設定されたロシア・ウクライナ戦争の今後については特に言及はなかった。
現在、その目標は「就任後6カ月以内」に後退しているが、ロシア軍が戦況を優位に進める中、まだ交渉糸口すら見出せていないとの見方は多い。
こうした状況はエネルギー価格の不安定化を招くため、「原油を増産し価格を引き下げる」という上記エネルギー政策の含意とは正反対に作用する論点である。
為替見通しの観点からは、「トランプ政権下でエネルギー価格が安定する」という前提がどこまで有効なのかを注目したい。
というのも、昨年末の本コラムへの寄稿『2025年のドル円は?「実需の円売り」は影を潜める』では「2025年が平均70ドルで推移したとすると、前年比で約13%の下落になる」という想定の下、2025年の貿易収支が兆円単位で改善すると議論した。これは明確に円売り圧力の緩和であり、近年にはない論点であると指摘した。
しかし、実際のエネルギー価格は高止まりが現状である。
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