「私が通っていた都内某所のある銭湯は、もともと地域住民に愛される老舗の銭湯でした。ところが、以前からのサウナ人気でサウナ待ちの列ができるようになり、その後、大規模な改装がありました。
すると、6人しか入れなかったサ室が20人弱入れるようになり、20分に一度オートロウリュがされる熱々の空間に。水風呂もチラーが効いてキンキンになり、休憩室には常に扇風機が回っている……という、『ととのう』ための場所になったんです。
その結果、若いサウナーと外国人が訪れる場所になって、昼から夜まで満員になっていて、オリジナルのTシャツとかも売って経営的には儲かってそうなのですが、地域のお年寄りがすっかりいなくなってしまったんです。
ゆっくりできる雰囲気じゃなくなってしまったし、あの熱々のサウナ、キンキンの水風呂は、サウナ好きであってもお年寄りにはキツいですよね」
日本で進む「ととのい至上主義」
2019年のブーム以後、特にフィンランド式の本格的なサウナが増えた。温めた石の上に水をかけてサウナ内の温度を上昇させる「ロウリュ」や、そこで生まれた熱波をタオルなどであおいで循環させる「アウフグース」がサウナにおいて一般的になってきたのだ。
「ととのう」ためにさまざまな工夫を凝らす、いわば「ととのい至上主義」が本格的に構築されてくる。
中でも、一部のサウナーから支持されているのが「できるだけ高温のサウナに耐えて、できるだけ低温の水風呂に耐えるほど気持ちいい」という考え方だ。
実際、サウナ検索サイトである「サウナイキタイ」で調べると、一般に「高温サウナ」といわれる100度以上のサウナを有する施設は2120件あって、全体掲載数1万4089件のうち15%を占めている。
ちなみにサウナの発祥国であるフィンランドでのサウナの温度は70~80度で、サウナ文化研究家のこばやしあやなによれば、日本のサウナを目の当たりにしたフィンランド人は「サウナ室が高温低湿すぎて、ロウリュ本来の心地よさが楽しめない」と困惑するという((誤解だらけ?「フィンランド式サウナ」意外な真実/東洋経済オンライン・2023年5月31日)。
担当編集行きつけのサウナで起こった変化も、まさに「高温・低温二極化減少によるととのい至上主義」の最たる例だろう。
しかし、その結果として「地域のお年寄り」がいなくなった。実際、極端な温度変化がある昨今のサウナは、高齢者にとっては体の心配が必然的に出てくる。
最近話題の「ヒートショック」の危険性も上がる……かは、その人のサウナの利用スタイルにもよるだろうが、安全に配慮して入っても、肌は痛くなるだろう。
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