なぜ呼子のイカは全国ブランドになれたのか 短所を長所に変えた逆転の発想

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透明感が鮮度の証明

1杯2000円以上で売れることもある呼子のイカ。実はイカを「生き作り」で提供することは、とても難しいとされている。イカは温度変化に弱い生き物で、釣り上げた瞬間からすぐに鮮度が落ちていってしまう。

生きたままイカを港に持ち帰ることができるのは、呼子町くらいだとも言われている。それを「生き作り」で提供する。これは、漁師と飲食店の協力なしには成り立たない。

市場に卸す暇すらない

午後5時。日が落ちる前の夕暮れ時にケンサキイカの漁は始まる。古川さんの船は玄界灘の漁場に向けて出航した。長年の経験で潮の流れを読み漁場を探す。選んだ漁場は潮の流れがぶつかり合う「潮目」といわれる場所だ。

潮目にはプランクトンが多く発生する。それをエサにする小魚、小魚をエサにするイカが集まる

この潮目には多くのプランクトンが発生する。そのプランクトンをエサにする小魚が集まる。つまり、潮目には小魚をエサにするケンサキイカが集まるというワケだ。漁場に着いた古川さんが、海面に光を照らして30分。ケンサキイカが船の周りに集まりだしたタイミングで、古川さんは疑似餌を投入した。

すると、わずか数分でケンサキイカが仕掛けにヒット。海面からイカをあげると、古川さんは釣ったケンサキイカに手を触れることなく針を外して生簀(いけす)に投げ入れた。この間、わずか数秒。実は、この数秒の“早業”こそが、生きたままイカを届ける秘密なのだ。

わずか数秒で釣ったケンサキイカが生簀に投げ入れられる。まさに早業だ

普段、冷たい海域に生息するイカは手で触ると人間の体温でやけどして死んでしまう。さらに、投入された生簀の水温がおよそ20度。イカが生息する海水の温度に近いモノを海底からくみ上げている。

生簀の水温は20度。海底からくみ上げている

そして、大量のイカを獲った古川さんが向かった先は……漁港ではなく海上にあるとある施設。そこは……飲食店の専用の生簀なのだ。宮本さんが営む「いか道楽」をはじめとする多くの店は、自然海水を24時間循環させている。これこそが呼子名物「イカの生き作り」を生み出す最大の秘密なのだ。

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